表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/19

第5話:元彼からの逆襲

「……返信、俺が書いていいか?」


行人の声は、いつもよりずっと低くて冷たかった。


あたしは戸惑いながらも、どこか期待している自分を止められず、震える手でスマホを行人に手渡した。


「……いいけど、変なこと書かないでよ?」


行人は無言で画面をタップし、数秒で返信を送り終えた。そのままスマホをあたしに返すと、立ち上がって缶コーヒーの空き缶をゴミ箱に投げ入れた。


「あー、スッキリした。さ、行くぞ。次は飯だ」


「ちょっと、なんて送ったのよ!」


慌てて画面を覗き込むと、そこには一行だけ、簡潔すぎるメッセージが残されていた。


『今、彼氏と一緒にいるので。もう二度と連絡しないでください』


あたしは絶句した。


「……彼氏って、あんたのこと?」


「『()()』だろ? 設定は守らないとな」


行人はケロッとした顔で歩き出す。心臓がうるさい。これじゃ、どっちがリハビリされているのか分からない。


しかし、その日の夕方。事態は最悪の形で動き出した。


二人が夕食を食べようと駅ビルへ向かっていた、その時だ。


「……夏美?」


背後から聞き覚えのある声がして、あたしたちは足を止めた。


そこに立っていたのは、冬弥だった。


相変わらずシュッとしたスーツを着こなしているが、顔には明らかな焦燥感が浮かんでいる。彼は、あたしの隣に立つ行人を、品定めするようにジロリと睨みつけた。


「……誰、その男。さっきの返信、こいつが書いたのか?」


「……三浦行人です。夏美の……彼氏ですけど、何か?」


行人が、あたしの肩を引き寄せた。


その体温が、冬弥に気圧されそうになっていたあたしを支えてくれる。


「彼氏? 笑わせるなよ。つい数日前まで俺と付き合ってたんだぞ。夏美、お前、当てつけのつもりか?」


冬弥が、一歩詰め寄ってきた。


「悪いけど、こんな……どこにでもいそうな冴えない男と付き合っても、お前は幸せになれない。戻ろう。やっぱりお前は、俺がいないとダメんだよ」


「守ってあげたくなる女がいい」とあたしを捨てたくせに、いざ離れてみると、都合のいい部下のような女がいなくなって困っている。その透けて見える本音(エゴ)に、反吐が出そうだった。


あたしが言い返そうとした瞬間、それよりも早く、行人の腕に力がこもった。


「冴えない男で悪かったな。 shadow。 shadow。でも、少なくとも俺は、夏美が仕事で輝いてる姿を『可愛くない』なんて言わない。お前にとっての幸せは、自分の都合に合わせることだろ?」


「なんだと……?」


「夏美を()()()()()()()()()()()()。二度と、その汚い口で彼女の名前を呼ぶな」


行人の鋭い視線(おとこのかお)に、冬弥が思わずたじろぐ。


行人はそのまま、冬弥の脇を通り抜けるようにあたしを連れて歩き出した。


しばらくして、冬弥の姿が見えなくなったところで、行人は不意にあたしの肩から手を離した。


「……悪ぃ。つい言いすぎた」


「……行人」


あたしは、彼の背中を見つめた。


「本当に見てきたのは俺だ」という言葉。それは、演技にしてはあまりにも熱がこもっていて。


「……さっきの、本当に行人の本心?」


あたしの問いに、行人は振り返らずに頭をガシガシとかいた。


「……リハビリのメニューに決まってんだろ。ほら、腹減った。焼肉にするぞ、焼肉!」


照れ隠しなのが丸わかりな、不自然に明るい声。


あたしは彼の背中に向かって、小さく「ありがとう」と呟いた。


冬弥へのリベンジは果たせた。 shadow。けれど、あたしの胸には別の、もっと大きな嵐が吹き始めていた。

第5話をお読みいただきありがとうございました!


【次回予告】

第6話「出張先での波乱」

会社で大きなプロジェクトが舞い込み、夏美と行人は二人きりで地方出張へ行くことに。しかも、手違いで予約されていた部屋は「一つ」だけで……!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ