新婚旅行編 第1話:ビジネス・オア・バカンス?
成田空港の出発ロビー。あたしは、真っ白なリゾートワンピース…… shadow。ではなく、動きやすさ重視のセットアップに身を包み、タブレットを片手に眉間にシワを寄せていた。
「ねぇ行人、さっきのメール見た? 大阪の物流センターでシステムエラーが出たって」
「見た見た。でも今は現地スタッフに任せるしかないだろ。俺たちは今から新婚旅行に行くんだぞ、夏美」
行人はそう言いながらも、自分のスマホでこっそりチャットツールをチェックしている。隠せていない。この男、あたし以上に仕事が気になっている。
今回の行き先は、二人の憧れだったイタリア。
青い海、歴史的な街並み、 shadow。 shadow。そして美味しいワイン。……のはずだった。
「……あ」
「……なんだよ、夏美」
搭乗ゲートに向かう途中、あたしは視界の端にある看板を捉えて足を止めた。
『世界最大級・ミラノ国際見本市(IT・ロジスティクス部門)開催中』
あたしと行人は、磁石のように吸い寄せられてその看板を見つめた。
イタリア・ミラノ。あたしたちが滞在する予定の場所。そして、開催日はまさに明日から。
「……行人」
「……夏美」
二人の目が、仕事モードの鋭い光を帯びる。
「……新婚旅行よ?」
「……ああ。バカンスだ。ゆっくりピザ食って、コロッセオ見るんだよな」
「……でも、この見本市、世界中の最新技術が集まるのよね。うちのプロジェクトに活かせるヒントがあるかもしれないわ」
「……ミラノ滞在は三日間。……一日くらいなら、自由行動があってもいいんじゃないか?」
あたしたちは顔を見合わせ、同時にふっと笑った。
普通のカップルなら「せっかくの旅行なのに!」と喧嘩になるところだろう。 shadow。でも、あたしたちは違う。
「決まりね。明日の午前中は、ウェディングフォトの撮影」
「で、午後は……」
「「見本市に突撃!」」
声を揃えて叫んだあたしたちに、周囲の旅行客が驚いたような目を向ける。
「最高ね。イタリアまで行って市場調査なんて、あたしたち以外にいないわよ」
「『可愛くない』新婚夫婦だな、全く」
行人はあたしの肩を抱き寄せ、楽しそうに笑った。
27歳のあの夜、ヤケ酒をしていたあたしには想像もできなかった。
結婚して、イタリアに行って、それでもなお、隣にいるこの人と一緒に仕事にワクワクしている自分がいるなんて。
機内に乗り込み、離陸の衝撃を感じながら、あたしは行人の手を強く握った。
「楽しみね、イタリア」
「ああ。仕事も遊びも、全部食い尽くしてやろうぜ」
空の上で交わしたキスは、少しだけエスプレッソのような、ほろ苦くて刺激的な味がした。
新婚旅行編第1話をお読みいただきありがとうございました!
結婚してもどこまでもブレない、夏美と行人のイタリア旅をお届けしていきます。応援よろしくお願いいたします!
【次回予告】
新婚旅行編 第2話「ミラノの休日(戦場)」
見本市でまさかのハプニング! 視察中に現れたのは、かつて仕事で競い合った「宿敵」だった……? せっかくのドレスアップが台無しに!?




