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番外編 第2話:新妻修行はパスタ屋で

結婚を控えた週末。大阪の行人のマンションで、あたしたちはキッチンに並んで立っていた。


「……なっつー、お前。それ、本気で言ってる?」


行人が、まな板の上を指差して絶句している。


「何よ、真剣よ! 玉ねぎはみじん切りにすれば、だいたい何にでもなるって聞いたわ」


「お前がやってるのはみじん切りじゃなくて『粉砕』だろ。形がなくなってるぞ」


そう、あたしには致命的な欠点(ウィークポイント)があった。


仕事は完璧。プレゼンも完璧。でも、料理だけは……効率を求めすぎるあまり、全ての工程が「()()()()()」に特化していたのだ。


元彼・冬弥には「女なら肉じゃがくらい作れ」と言われてブチ切れた記憶があるが、行人の前ではなぜか「少しはまともなものを食べさせてあげたい」という、慣れない感情が芽生えていた。


「いいから、今日はあたしが作るの! あんたは座ってて!」


「いや、放置したらこのキッチンが爆発しそうだから見てる。……ほら、火が強すぎる。パスタ茹でるのに地獄の業火みたいな音させてどうするんだよ」


あたしたちが挑んでいるのは、二人の思い出の味である「明太子パスタ」。


あの時、会社近くのパスタ屋で「付き合ってるフリ」を提案された、あの味だ。


「……ねぇ、行人」


「ん?」


「あたし、 shadow。やっぱり『家庭的な女』には向いてないみたい。仕事ならいくらでも残業できるのに、パスタ一杯作るだけでこんなに息が切れるなんて」


あたしはフライパンを握ったまま、少しだけ肩を落とした。


行人はふっと笑うと、背後からあたしの手の上を自分の手で包み込んだ。


「いいんだよ。お前に毎日三食作ってもらおうなんて、最初から思ってないし」


「……でも、奥さんなんだから」


「奥さんである前に、お前は俺の()()()()()()()()だろ。料理が苦手なら、俺が作ればいい。その代わり、お前はバリバリ稼いで、たまに高い店に連れて行ってくれよ」


行人の胸の鼓動が、背中越しに伝わってくる。


「こうあるべき」という型に嵌めようとせず、あたしの欠点ごと仕組み(システム)で解決しようとする。その合理的で深い愛情が、何よりも嬉しかった。


「……わかったわ。じゃあ、今日のパスタの仕上げは行人がやって。あたしは……お皿を出すわ」


「おう。それが一番安全だな」


出来上がったパスタは、少し形が崩れていたけれど、あの店で食べたものよりずっと温かかった。


「……美味しい」


「だろ? 夏美が粉砕した玉ねぎが、いい隠し味になってる」


「うるさいわね!」


グラスを合わせ、笑い合う。


完璧な妻じゃなくていい。あたしたちらしい、いびつで最高な「チーム」になればいい。


パスタの湯気の向こうで、行人が優しい目でこちらを見ていた。


「……夏美」


「なに?」


「お前、今、いい顔してるぞ。プレゼン勝った時より可愛い」


あたしは、熱いパスタを口に放り込んで、顔の火照りを隠した。

番外編第2話をお読みいただきありがとうございました!

次回の番外編第3話で、『お〜るにゅ』は本当に本当のグランドフィナーレを迎えます。最後まで二人の戦いと幸せを見守っていただけると嬉しいです!


【次回予告】

番外編 第3話(最終回)「最高の『ただいま』」

いよいよ結婚式当日。でも、あたしたちらしく、式直前までトラブル続き!? 27歳で振られたあの日から始まった物語、本当のグランドフィナーレ!

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