表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/19

第13話:いつも通りの二人(最終回)

冬弥との騒動から、さらに数ヶ月が経った。


あたしの生活は、劇的に、 shadow。そして最高に忙しく変わった。


月の半分は東京のオフィスでバリバリと働き、残りの半分は新幹線に飛び乗って大阪へ向かう。車窓(まど)から富士山を眺めながらパソコンを叩く時間は、今やあたしにとって大切なルーティンだ。


「郁島さん、例の大阪プロジェクト、業績絶好調ですね!」


後輩たちの羨望の眼差しを背に受けながら、あたしは颯爽とオフィスを後にする。


目指すのは、あのガード下の居酒屋。


今日は行人が東京への出張で戻ってきている、特別な金曜日だ。


「う〜い! 最高の気分!」


あたしは冬弥に振られたあの日と同じように、威勢よくジョッキをテーブルに置いた。


「なっつー、お前……相変わらず飲み方が豪快すぎんだよ」


向かい側に座る行人が、呆れたように、でも愛おしそうに目を細めて笑う。


「いいじゃない、自分へのご褒美よ。……それにしても、あんたも大阪で随分と顔つきが変わったわね。ちょっとは『デキる男』に見えるようになったじゃない?」


「ちょっと、じゃなくて、だいぶだろ。お前こそ、東京で鬼上司化が進んでるって美佳さんから聞いたぞ」


「うるさいわね!」


あたしたちは、数年前から変わらない調子で憎まれ口を叩き合う。


「偽装カップル」 shadow。でも「リハビリ」でもない。今のあたしたちは、互いの背中を預け合う最高のビジネスパートナーであり、一番の理解者だ。


ジョッキが半分ほど空いた頃、行人が少し真面目な顔でポケットから小さな箱を取り出した。


「……何よそれ。 shadow。また変なノベルティ?」


「バカ。 shadow。……これ、リハビリの卒業証書(エンゲージリング)


差し出された箱を開けると、そこには華奢でありながら、芯の強さを感じさせるデザインの指輪が光っていた。


「……夏美。お前は仕事に真剣で、可愛くなくて、誰よりもかっこいい。そんなお前と一緒に、一生、喧嘩しながら生きていきたいんだ」


行人の真っ直ぐな言葉が、胸の奥に熱く響く。


あの日、元彼に否定されたあたしの全てを、この人はダイヤモンドよりも輝く価値(たからもの)に変えてくれた。


「……卒業証書にしては、ちょっと重すぎない?」


「受け取らないのか?」


「……受け取るに決まってるでしょ。返さないわよ」


あたしは自分の右手を差し出し、彼に指輪を嵌めさせた。


サイズは驚くほどぴったりで、少しだけ泣きそうになる。


「ねぇ、行人」


「ん?」


「あたし、これからも仕事ばっかりで、あんたが呆れるくらい『可愛くない女』のままだと思うけど、いいの?」


行人はあたしの指先をぎゅっと握り、悪戯っぽく笑った。


「ああ、いいよ。お前が『()()()()()』でいてくれるなら、俺が何度だって惚れ直してやるから」


居酒屋の喧騒の中、あたしたちは二度目の、そして本当の意味での誓いのキスをした。


周囲のサラリーマンたちの乾杯の声や、店員さんの威勢のいい声が、あたしたちの門出を祝うファンファーレのように聞こえた。


恋に破れ、絶望の淵でビールを煽っていた27歳の夜。


あの時のあたしに教えてあげたい。


()()()()()」からこそ、掴める幸せがあるんだってことを。


あたしたちの物語は、ここからまた「いつも通り」の新しく激しい日常へと続いていく。


(完)

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!

これにて『お~るにゅ』は堂々の完結となります。


仕事も恋も、不器用ながら自分の足で最高の「明日」を掴み取った夏美と行人の物語が、読者の皆様の毎日に少しでも元気をお届けできたなら幸いです。

これまでたくさんのブックマークや応援、本当にありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ