参上
金と欲で集められた烏合の衆が、恐怖で統率された軍勢へと変貌していた。
「無道」。その旗印のもと、男たちは明確な殺意を宿して動き、李の視線がその全てを支配している。
京絆連・第一隊は必死に踏みとどまっていたが、限界は目前だった。連携は崩れ、呼吸は合わず、拳の速度は目に見えて落ちていく。
一人が地面に沈み、その横を次の男が駆けていく。だが、その背中も瞬く間に鮮血に染まった。
春也は奥歯が砕けそうなほど噛みしめる。
「……一旦、下がれ!!」
喉が焼けるように熱く、声は掠れていた。
間柴が仲間を抱えて後退する。春也は振り向きざまに叫んだ。
「星野! 太田!」
京志一家の古参――戦い慣れたはずの二人も、目の下に濃い疲労の影を落としている。
「俺と一緒にこい!!」
二人は無言で頷く。声は出ないが、足はまだ動いた。
「はよ下がれ! その路地や!!」
民家に挟まれた細い抜け道。仲間たちが肩をぶつけ合いながら滑り込んでいく。
これは敗走ではない。ここで押し返すための布陣だ。
春也、星野、太田が殿として最前線に立つ。
「……よっしゃ……ここなら数は活かされへん」
そう吐き捨て、拳を握る。その手は微かに震えていた。
狭い路地に、無道の男たちが雪崩れ込んでくる。春也が吠えた。
「来いっ……!!」
右の拳が、先頭の男の顎を撃ち抜く。
続けてもう一人。鈍い音と共に、後頭部から地面に叩きつけられた。
「はぁ……はぁ……」
腕が鉛のように重く、足元の踏ん張りが効かない。振るった拳に走る鋭い痛み。
(あかん……)
骨か、腱か。拳を握り込むことすらままならない。
その隙をつき、敵の拳が春也の腹部にめり込んだ。
胃液がせり上がり、嘔吐感を覚える。そこにすかさず鉄パイプが振り下ろされた。右腕に直撃し、骨が砕ける感触が脳髄に響く。
「……あっ……かん……」
右腕が糸の切れた人形のようにぶら下がる。力が全く入らない。視界が揺れ、汗と血で顔の感覚が麻痺していく。星野が殴り飛ばされ、太田も膝をつく。
(……あかん。終わった。ほんまに……終わった)
あれほど己の拳を信じていた男が、いま、心の中で敗北を認めかけていた。
(……すまん。京志……)
その時だった。
鼓膜を裂くような乾いた破裂音。
世界が音ごと反転したかのような衝撃。重く濃密な煙が瞬時に充満し、視界と呼吸を奪う。
「……うぉ……!? なんやこれ……!?」
「目ぇ開けられへん……!」
「吸うなァッ!!」
咳き込む声、苦悶のうめき声。
混乱。誰が、何を、なぜ。
白濁した視界の中、ひときわ通る声が響き渡った。
「よっしゃよっしゃァ!! 改良版、バッジバジやんけコレ!!」
「アホか!! なに混ぜてんねん!!」
「俺はマスクしてるからええねん!」
少しずつ霧が晴れ、その姿が露わになる。
金刺繍の特攻服、背に煌めく文字。
『喧嘩実力超一流』
そして坊主頭の男が隣で拳を合わせる。
江藤匠、楓一平、参上。




