無道
第一隊が、春也の先導で釡ヶ崎方面へと向かう。深夜一時半。
長橋の交差点――照明の薄暗さとほんのり光るアスファルトが、緊張を何倍にも増幅させる。そのとき、間柴がピタッと足を止めた。
「……あいつら、もうこんなとこまで」
交差点の向こう側。まるで待ち構えていたかのように、無道の男たちがずらりと並んでいた。五十人は超えている。黒のパーカー、鉄パイプ。目だけが、光っていた。
その場の空気が凍る。両陣営、道一本。
そのたった数メートルが、地獄と地獄を隔てていた。
誰も言葉を発さない。けれど、わかる。ここが“火点”。
「どうする?」
誰かが問う。春也が即答する。
「どうする言うたかて……やるしかないやろ」
間柴の肩が小刻みに揺れていた。呼吸が浅い。
「……あの数、相手にか?」
足が震えていた。春也が低く言った。
「覚悟、決めたんちゃうんかい」
その言葉に、間柴はぐっと歯を食いしばり――両足をバンッ!と勢いよく叩いた。
「もう二度と逃げへんで、俺は」
それだけ言って――突っ込んだ。
道路を割るように、巨体が一直線に突っ込んでいく。遅れるなとばかりに、第一隊の男たちが後を追う。
この隊は京絆連の主力。二十人。最前線を砕くために選ばれた面子。
「行けぇぇぇええ!!」
突進した間柴が、最前列の無道の男二人を両腕を振り回し、そのまま吹っ飛ばす。
「ビビんなぁあ!! 地面に倒せ!! そっからや!!」
無道側が声をあげ反撃を仕掛ける。間柴の足に三人、絡みつく。よろめく背中に強烈な飛び蹴り。
「グッ……!」
巨体が膝がつく。そこに、容赦なく蹴りが叩き込まれる。
「ええぞ! 人数かけろ! いけいけ! 殺せ!!」
肉と骨を打つ音が響く――間柴の身体が揺れる。必死に耐える。
――無道の男の顔面がえぐれるように吹っ飛んだ。春也の右フック。続けざまにボディ二連打。
肋骨の鳴る音が、交差点に響いた。男が泡を吹いて倒れる。
「間柴ぁ、アドレナリン出てんのは分かるけど……突っ込みすぎや、ちょっと落ち着けや」
鼻血を拭いながら間柴が笑う。
「な? びびっとらへんやろ。どうせ牛尾さんどっかで張っとるからな。ポリくる前に終わらせるんや」
間柴は一息ついて無道のメンバーをゆっくり眺める。
「数は倍以上や」
春也がため息をつきながら呟いた。
「漫画みたいな展開はあらへん。だから俺らは“連携” や。ひとりで突っ込むな」
春也が全員に向けて怒鳴る。
「お前らァァァ!!! 絶対ひとりになるな!! 背中見せんなよ!!!」
第一隊が吠える
「おう!!!」
第二波。今度は春也と間柴が同時に突っ込む。
春也は相手のパンチをスウェイでひらひらかわし、ジャブ、アッパー、ワンツー、頭突きの連撃。
間柴はエルボー、ラリアット、投げ技――全部フルパワー。
無道は完全に統制を失っていた。
「なんやねんこいつら……」
「聞いてへんぞ、こんな化けもんらがなんで……!」
次々と、無道の男たちが逃げ出す。
「おらぁああ!! 逃げんなや!!」
「まてゴルァァ!」
背中を見せる敵に、追い討ちをかける。
「深く追うなぁあ!!」
間柴が叫んだ。その直後、追いかけた京絆連の男が――横からのハイキック一閃で吹っ飛ぶ。電柱に顔から激突。アスファルトに血が散る。
現れたのは、弁髪の男――李凱恩。
その場に似つかわしくない笑み。逃げようとした無道の兵隊の背後に、ゆっくり近づく。
「おいおい……オマエ、どこいくの」
震える無道の男。李は、そっと肩に手を置き、その流れのまま首を締め上げた。
「んっ、あっああぁ……あ」
ギシギシと音を立てて、泡を吹いて――男は崩れ落ちた。
「逃げたら、俺がコロス」
李の声が、暗闇に沈んだ。
「俺らは無道。逃げ道はない」




