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血環 ー西成ハグレモノー  作者: 京田 学
最終章 西成決戦
133/149

開始

雨上がりの豊中・庄内。ネオンが濡れたアスファルトに滲んでいた。時刻は午前一時を回っている。


廃ビルの裏手、黒塗りのランドクルーザーの中で、北村真澄は一本のタバコに火をつけた。待ち人を前に、すでに三本。落ち着かない夜だった。


眼鏡の奥の目は鋭く、それでいてどこか諦めに似た静けさを帯びている。スマートな格好、整理された髪型。その胸の内には、暴力よりも冷酷な「知恵」が渦を巻いていた。


ほどなくして、遠くから見るからにごつい馴染みの顔がやってきた。


「会うてきたわ」


その一言で、車内の空気が変わった。北村の目が光る。


「……あのな、理貴。何回言えば分かる? ヤクザとこれ以上付き合うのは危ない」


剛田は反応しない。車内ですぐに火をつけ、煙を吐いた。灰が指に落ちる。


「関わらんのは無理や。あいつらは、金の匂い嗅ぎつけたらすぐ擦り寄ってくるヒルみたいな連中や」


「……それで何を言ってきたんだ。三崎は」


剛田は一拍置いた。まるで、口にするのを躊躇うように。だがすぐに、低く淡々と呟いた。


「 “京絆連合を潰せ”やと。連中、薬だけじゃ足りへんらしい。西成そのものを、丸ごと呑もうとしとる」


真澄の表情が、わずかに揺れた。薄い唇が動く。


「そんなことして、今の時代なんの意味がある?」


「しらん。ただ一つ言えるのは――」


 剛田は、火の消えたタバコを灰皿に押しつけ、振り返った。


「――俺が食うたる。逆や。あいつらごと、全部食うたる」


静かな声だった。だがその声の奥には、底の見えないものがあった。怒りでも野望でもない。飢えだった。


「真澄……李よんどけ」


真澄は返事をせず、ただ前を見たまま次のタバコに火をつけた。

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