終末
――数ヶ月後
舗装の甘いアスファルト。電線がもつれ、古い建物が並ぶ一角。双子を乗せたベビーカーを、愛がゆっくりと押していた。
隣を歩く三崎は、何も言わない。白いシャツ、腕時計、表情の無い顔。何も変わらないようでいて、何かが壊れている男だった。
「邦親さん……」
「…………」
「私、あの夜のこと――」
言いかけた、そのときだった。
――ババババッ!!!
路地の角を、黒のトヨタ・ハイラックスが猛スピードで曲がってきた。
助手席の窓が開く。黒い袖が突き出され、そこからサブマシンガン(MP5)が火を噴いた。銃声。地響きのような爆音。
散弾の雨が三崎の胸元をかすめ、そのうちの一弾が、愛の胸を撃ち抜いた。
一瞬、時間が止まった。ベビーカーが揺れ、赤ん坊の泣き声が空気を切り裂く。
「……あ、ぁ……」
愛は、ゆっくりと膝をついた。胸から血が溢れる。その場に崩れ落ち、ベビーカーに手を伸ばすようにして、動かなくなった。
目に涙が浮かぶ。
「……ごめんね、慎吾くん……」
最後の言葉だった。それは誰にも届かず、ただ口の形だけが残った。
――三崎は一歩も動かない。
叫びも、泣きも、怒りもない。ただ、目だけが微かに見開かれた。まるで、想定していた未来に“現実”が追いついたかのように。血に濡れた愛の体を見下ろす。倒れたベビーカーから、赤ん坊の泣き声が止まらない。
三崎は黙ってその場に立ち尽くし、静かに手をポケットに入れた。引き返すことも、駆け寄ることもせず。――背中だけが、冷たい静寂の中で滲んでいく。




