一番
三崎は自室のソファで、藤井の置いて行った名刺をじっと見ていた。
名刺には、柾木組舎弟頭補佐 藤井連合会長――藤井忠臣、と書かれている。
印字された文字の一つ一つが、まるで圧力のように目を刺してくる。
三崎はすぐに、裏社会に精通しているジャーナリストに電話を入れた。事情通の間では、すでにこの話は“共有されている”という。 相手は開口一番、こう語った。
「柾木組言うたら、日本最大の広域暴力団・山川会の直参ですわ。いわゆる“プラチナ”ちゅうやつですわ。
“柾木にあらずんば山川にあらず”―― 一時は、そうまで言われた山川の看板組織です。
柾木組は昔から興行に強くてね、組長自ら大手プロダクションの相談役やってますし、組員の中には芸能事務所の代表やっとるやつもおる。ほんま、芸能界とズブズブですわ」
電話ごしからでも相手の熱量が伝わってくる。
「今、関東の某テレビプロデューサーとスポンサー企業を抱き込んで、格闘技イベントを仕掛けてるっちゅう話も、マジです。関東テレビの中の人間からも、クリスマスのゴールデン枠を押さえてる、って裏取れてますわ」
通話が切れても、三崎の脳内では情報の断片がグルグルと巡っていた。
柾木組――ヤクザ事情に疎い三崎ですら聞いたことのある名前。その組の人間が、いま自分に圧力をかけてきている。
どう動くべきか。ソファに深く腰を沈め、天井を見上げる。冷徹な思考回路が作動する。
金、損益、立場、波及効果―― まるで精密機械のように、ひとつひとつの要素が演算されていく。
打算の答えを出そうとする自分。その思考のどこか遠くで、忘れかけていた声がこだまする。
――「一番にならな無意味や」
父の声だった。それを「呪い」のように背負わされてきた息子の記憶。
三崎は目を閉じた。この一手が、勝ちか負けかではない。一番を獲りに行ける道かどうか、それだけが問われている――。




