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最高なのはいつだって九月最後の水曜日  作者: 園村マリノ
第三幕

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04 ハッピー・ゴーアウト・デイ②

「本当に何も食べなくていいの?」


「ああ」


 フードコートの隅の一角、四人掛けの席。


 ハンバーガーとポテトと烏龍茶をセット購入したわたしに対して、正面に座るカズキは、無料の水すら飲む気はないようだった。


「せっかく奢ってあげるって言ったのに」


「さっきも言ったろ、食欲はゼロだと」


「食べ盛りじゃないの? まあいいけどさ」


「それよりも本題だ。ループをやめてもらうぞ、絶対に」


「さっき……じゃなくて初めて会った時言ったでしょ。終わらせる気はない、断固拒否、って」


 カズキが睨んでくるけど、わたしは無視してハンバーガーに齧り付く。ああ、やっとピクルスに当たった。端に寄ってたんだな。


 ……黙ってるとずっと睨んでるよこの子。おお怖。


「それに話を聞いた限りじゃ、あの化け物倒すの無理でしょ。わたしまだ死にたくないし」


「勿論、一人でどうにかしろなんて言わない。俺も協力する」


「二人で戦う? 愛と友情のツーナントカ」


「真面目な話をしているんだ」


「わたしも真面目ですがー?」


 眉間に手を当てて小さく唸るカズキを見やりながら、わたしはポテトを数本纏めて口に入れた。


 別に、意地悪がしたいわけじゃないんだ。わたしはただ、嫌な事から逃れて気ままに生きていたいだけ。その気ままな生活をやめろ、やめるには何かヤバそうな怪物を倒せ、ただし勝ち目はなさそうだ──なんて言われたら、普通断るでしょ。


 しかもこの少年、謎だらけだし。どこまで信用出来る? あとちょっと生意気だし。へっ。


「ねー何食べるぅ~?」


 わたしがほとんど食べ終わった頃、さっきの茶髪二人とテレサがフードコート内に入って来た。


「ピザ良くない? 皆でシェアしてさ」


「いいねー。でもうちラーメン食べたいかもー」


 三人はわたしたちよりも奥、アイス&ソフトクリームの小さな店舗の裏側にある四人席に荷物を置いた。


「テレサは決めた?」


「うん、チーズバーガーにする」


「うちはラーメンにするわ」


「うちもやっぱラーメンにする。一緒に買いに行こ」


 茶髪二人は顔を見合わせてニッコリ。


「じゃあわたし待ってるから、先に買ってきな」


「うん、ありがと」


 茶髪二人が財布片手にラーメン店まで向かい、テレサは椅子に腰を下ろした。


 カズキはわたしの視線を追うと小声で、


「……あの人たちがどうかしたのか」


「うん……八景島の海岸の浅瀬よりも浅い友情だな、って」


 また意味不明な事を、と言わんばかりのカズキに、わたしは〈アクアミュージアム〉内で目撃した一部始終を話した。


「陰湿じゃない? 今もさ、茶髪二人でラーメン選んだの、テレサだけ仲間外れにしたかったんだよ。嫌っているなら、何でわざわざ一緒に遊びに来たんだか。遠足で仕方なくグループを組まされたわけじゃないのに」


「そりゃあ……そういう事をするため、だろ」


 大して興味ないのか、カズキは淡々と答えた。


「そういう事をするのが楽しいから、そのために誘ったんじゃないのか、多分」


 そうなのかな!? だとしたらほんと最悪! ああ、イライラしてきた。小学生レベルの意地悪を、まさか推定二〇代前半の女たちがやっていて、それを目の当たりにしなきゃならないなんてね。


 わたしがもう一度目をやったのと同時に、テレサはショルダーバッグを片手にゆっくり立ち上がった。こっちの方へ歩いて来て、そのまま出入口へ向かって外へ。茶髪二人はラーメン店のレジカウンターの方を向いていて、スマホを弄りながらお喋りに夢中で全く気付いていない。


 ああ、トイレかな。フードコートを出てすぐ横、ちょっと奥の方にあったもんね。


 でも、あれ……? わたしの記憶が正しければ、トイレはこっち側じゃなくて、反対側の出入口の横だったような。


「そんなに気になるのか」


 カズキの言葉に我に返る。


「……うん」


 何か気になる。気になってる、水族館で見掛けた時から。


 同情? まあ、それもある。でもそれ以上に……




〝え、気にならない? こんだけいたら一匹くらいは死んでるのがいそうじゃない?〟




 面白そうな子じゃない?


「ごちそうさまでした!」


 わたしは最後のポテト二本と、ちょこっとだけ残っていた烏龍茶を胃袋に収めると、すぐに席を立ってトレーやゴミを片付けた。そしてまだ座ったままのカズキを無視して、フードコートを後にしたのだった。




 ……いた。


 わたしの予想通り、テレサは〈シーパラ〉の出入口の方へと進んでいた。


 このまま帰るのだろう。恐らく最初から、あの茶髪二人の悪意に気付いていたんだ。


 テレサはそこそこ早歩きだったから、こっちも自然と小走りになった。そしてメリーゴーラウンドの近くまでやって来た時、わたしは彼女の横に並んでいた。


 テレサがわたしに気付いて振り向いた。


「あ、あの!」


 思い切って声を掛ける。


「大丈夫? お腹空いてない?」


 うん、不審者だなこれ。でもいいや! どうせ今日の出来事も、次の朝にはなかった事になる。ループの恥は掻き捨て、ってね!


 テレサは足を止め、大きな目を更に見開いた。けどそれはすぐに細くなって、頬には小さな()()()も出来た。


「あー……さっき水族館で一緒だったおねーさんだ」


「そう、一緒だったおねえさん。いきなりごめんなさい、話し掛けちゃって」


「ううん、全然」


「水族館で見た、あなたと友達のやり取りが何か引っ掛かって、勝手にモヤモヤしちゃって。フードコートに来たと思ったら、あなた一人で外に出ていったから……」


「あははー……」


 テレサは困ったような、恥ずかしそうな様子で頭を掻いた。そりゃそうだ、追い掛けてきて急にそんな事言われてもね。謝って、一旦フードコートまで戻ろうか。カズキもまだあの周辺にいるだろうし──


「あの二人、高校からの友達なんだ」


 テレサは元来た方をちらりと見やってから、再びわたしの方を向いた。


「最初は普通に仲良くて、何処に行くにも、何をするにも三人でって感じだった。でもいつの間にか二対一になる事も、何か小馬鹿にされてるなって思う事も増えてきたんだ。

 卒業してからしばらくは会ってなかったんだけど、この間連絡来て〈シーパラ〉行こうって話になって。半年くらい会ってなかったから、久し振りに三人で純粋に楽しめるかなって思ったけど、全然そんな事なかったから、ざーんねん」


「そう……」


 白状しよう。やっぱり好奇心よりも同情の方が強い。わたしも小学生の時、ちょっと似たような経験をした事を思い出したんだ。そして二木雪美(ふたきゆきみ)ともね……。


「おねーさんお名前は? わたし釣井(つりい)テレサ」


 テレサって本名なのか。


「わたしは麻希奈。草薙麻希奈」


「麻希奈……マキーナ! でいい?」


「うん」


 ああ、ジョーさんと同じ呼び方だ。何かちょっとだけ胸が熱くなったような、苦しくなったような。


「わたしはテレサね。そのままだけど! あはは!」


「外国の名前みたいだけど……」


「お母さんが元々スペイン人だったの。帰化したから今は日本人」


 なるほどね。


「ねえマキーナ。せっかくお知り合いになったんだから、今日一日、一緒に遊んでくださいっ!」


 テレサが自分の眼前で、拝むように両手を合わせた。


「いいよ、勿論。不思議なご縁だし」


 そう、本当に不思議なご縁。ループしていなければ〈シーパラ〉には来なかったし、仮に違う場所でさっきみたいな嫌な光景を目にしても、話し掛ける事なんてなかっただろう。


「やった! ありがと! じゃ早速何か乗りたいな~。あと〈ふれあいラグーン〉と〈うみファーム〉と〈ドルフィン ファンタジー〉も行かないと!」


「テレサ、先にお昼ご飯は?」


「あ……うん。もうだいぶ空いてる。燃料切れ起こす二五分前って感じ」


「それは大変。わたしは何か飲むから、フードコート以外でお店を探そう」


「イェッッス!」


 ちょっと変わってるけど憎めない新しい歳下の友達を連れて、わたしは元来た道を引き返したのだった。


 茶髪二人? 知らなーい。途中で鉢合わせたって全然構うもんか。


 カズキ? ……こっちも知らん。

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