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最高なのはいつだって九月最後の水曜日  作者: 園村マリノ
第三幕

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22/27

03 ハッピー・ゴーアウト・デイ①

 朝食の後、わたしがやって来たのは〈横浜・八景島シーパラダイス〉、通称〈シーパラ〉。水族館に遊園地、ホテルなどで構成された複合型海洋レジャー施設だ。


 シーサイドラインの八景島駅で降りて少し歩くと、大きな橋が架かっている。そこを渡ると出入口があって──入園自体は無料だ──、正面の広場にはメリーゴーラウンド。開園したばかりだからか、まだ誰も乗っていない。


 広場から左に進むと、バイキングやフライト系のアトラクションコーナー。園内には他にもアトラクションがあるけど、このコーナーに一番集中している。


 懐かしいな、小学校の卒業遠足で当時の友達と全種類制覇したっけ。今はあの頃より、種類が減ったりリニューアルしたみたいだけど。後で何か乗ろうかな、へへへへっ。


 アトラクションコーナーを通り過ぎてしばらく歩き続けると、ようやくお目当ての水族館本館〈アクアミュージアム〉に到着した。


 何やらキャーキャーと騒がしい声がすると思ったら、黄色い体育帽子を被った小学校低学年くらいの子供たちが、列を作って入場待ちをしている。遠足かな。


 チケットを購入して、いざ〈アクアミュージアム〉へ。


 最初に目に入った水槽には、小さくてカラフルな熱帯魚がいっぱいだった。ほとんど名前がわかんないから、壁の展示パネルを見ながらチェック。


 クマノミ──三種類いるみたい──、キイロハギ、ナンヨウハギ……アカネハナゴイに、えーと……


「いないかなぁ……ご臨終の魚」


 ……んっ?


 何となく不穏で、ちょっと面白い言葉に左隣を見ると、同じ水槽を覗き込む女性が一人。大学生くらいかな。ウェーブの掛かった金色の長い髪──根元は黒くなってる──に、くっきりとした目鼻立ち。ワンピースとかドレスなんかが似合いそうな美女なんだけど、ラグランTシャツにジーンズ、スニーカーというラフな格好をしている。


「え~、何言ってるの~!」 


「ウケるぅ~!」


 金髪ちゃんの後ろで、別の女性二人──どっちも茶髪──が笑った。どうやら一緒に来た友達のようだ。


「え、気にならない? こんだけいたら一匹くらいは死んでるのがいそうじゃない?」


 あはは、まあその気持ちはわかるかもしれないな。


「全然気にならないし!」


「テレサってそゆトコ子供っぽいよね~!」


 連れの二人がまた笑って答えた。わたしの考え過ぎかな、どこか小馬鹿にしたような響きが感じられた。


 その後も、各水槽を見て回るタイミングが三人組と被った。じっくり楽しそうに眺める金髪ちゃん(テレサ)に対し、茶髪二人はざっと見ただけで、すぐにその場を離れてお喋りやスマホいじりを始めてしまう。


「ねえ、早くペンギン見に行こうよ! この先にいるって」


「そうだよね。写真撮りたいし」


 なるほど、茶髪二人は魚には興味ないんだな。彼女たちのお目当ては、ペンギンとかイルカとか、可愛いだの賢いだのって一般的に人気のある生き物に違いない。


「あー、行ってていいよー。追いかけるから」


 テレサが答えると、茶髪二人は「じゃあね」と答えて先に進んでいった。


 ずっと観察しているわけじゃないけど……テレサは本当にじっくり、心底興味深そうに魚を眺める。好きなのか、それとも入館料分はしっかり、と考えているのかはわからないけど。


 わたしがペンギンのコーナーまで来た時、茶髪二人は「カワイイ」を連呼しながら写真を撮りまくっていた。


「これ何ペンギンだっけー?」


「わかんなーい。皆同じに見えるし。あ、こっち来た!」


 わたしも目の前を泳いで横切ったペンギンを撮ってみた。……うん、ブレッブレ。勿論何の種類かわかんない。岩場で休んでいる子を撮り直すか……。


「ていうか、テレサまだ来ないじゃん」


 茶髪の一人が、元来た方を見やりながら思い出したように言うと、もう一人も振り返った。


「えー、まだ魚見てるのかな?」


「早くイルカとかも見に行きたいのにね~」


「相変わらずマイペースだよね」


「つーかあの子変わってるよね、マジ」


「うんうん。だから、うちら以外に友達いないんだよ」


「ね~」


 うわぁ、聞きたくなかった。気分悪い。というか、そんな事平気で言っちゃうあんたたちだって、本当の友達じゃないだろ。


「お待たせー」


 テレサが手を振りながら姿を現した。


「あ、来たぁ~!」


「ほらほら、ペンギンいっぱいいるよぉ~?」


 何事もなかったかのように笑顔で出迎える茶髪二人にドン引きしつつ、わたしはペンギンコーナーを後にした……。



〈アクアミュージアム〉内を一通り見て回ると、わたしは外に出た。


 普段は馴染みのないものから食卓に並ぶものまで沢山の種類の魚に、ペンギンやシロクマ、サメに深海の独特な生き物などなど、なかなか見応えがあったなぁ。


 中でも印象的だったのが、二頭のセイウチ。オスとメス、どちらもとにかく愛想が良くてビックリ! こっちを見ながら泳いだり、止まっているところにカメラを向けたらヒレを顔に当ててポーズを取ったり! あまりの可愛さに、何かちょっと泣きそうになっちゃった。


 海の生き物たちとふれあい体験が出来る〈ふれあいラグーン〉、魚釣りや採集体験などが出来る〈うみファーム〉、様々な視点からイルカが観察出来る〈ドルフィン ファンタジー〉……次はどのコーナーに足を運ぼうかな? 水族館じゃなくても、園内を歩いて、昔とどう変わっているかを比べてみるのもいいかもしれない。


 なんて考えていたら……わたしの腹時計が盛大に音を立てた!


 うん、とりあえず先にお昼ご飯だ! サラミサンドイッチを食べ終えてから、まだ四時間も経ってないけど! ()いたもんは空いたんだ!


 というわけで〈アクアミュージアム〉のすぐ近くのフードコート前まで移動。確かハンバーガー売ってたよな。ラーメンもあったはず。うーん、どっちにしようかな~?


「楽しんだか?」


「……はっ?」


 何処かで聞いたような若い男性の声がしたかと思うと、出入口付近の柱の陰から、見覚えのある学ランの少年が姿を現した。


「……うえっ!?」


 つい昨日、いや前回、初めて会ったばかりの謎の少年──


「カッ……カズ君!?」


 何でいるのさ!? 偶然? いや、そんなわけないだろう。ス、ストーカー……?


「俺はあんたを諦めたわけじゃない」


「……うんっ?」


 今度は別の意味でちょっとビックリした。少年よ、その言い方だと語弊があるぞ。


「ループを終わらせてほしい。いや、終わらせてもらう」


「ええ……あのさ、だからね──」


 わたしの腹時計が、盛大かつ間抜けな音を立てた。


「──あー……とりあえず先に何か食べていいかな」


 カズキは答える代わりに横に退いた。

 シーパラのアクアミュージアム内のセイウチ、ほんと可愛くてオススメです。

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