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最高なのはいつだって九月最後の水曜日  作者: 園村マリノ
第三幕

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21/28

02 違和感

「お待たせしました、モーニングセットBです」


 八時二二分。


 もう空腹が限界を迎えようとしていたところで、白い皿に乗ったお目当てのものがやって来た。


「ごゆっくりどうぞ」


 いただきまぁ~す!


 店員が去るや否や、わたしは出来立てほやほやのサラミサンドイッチに齧り付いた。


 今回は外で朝食。以前のように最寄駅の近くのカフェに同じ時間にやって来て、同じカウンター席に座って、違うモーニングセットを注文した。


 ああ……やっぱり出来立ては最高! ちょっぴり熱いスライストマトとチーズが、舌の上で絡み合うのが堪らない。メインのサラミとシャキシャキとしたレタスも、負けじと存在感を主張している。


 この間のクロックムッシュも良かったけど、こっちの方が好きだな。モーニングセットは全部で三種類あって、Aの厚切りバタートーストとベーコンエッグはまだ食べた事がないけど、これはもうサラミたちの優勝でしょ。


「そういや昨日さ、彼女とチェーン店の居酒屋行ったんだけど最悪だったよ」


 お、来た来た。以前と同じサラリーマン二人組が、アイスドリンクと番号札が乗ったトレーを持って。


「最悪って? 頼んだものが全然来ないとか、違うものが来たとか、ビールがぬるかったとか?」


「何で全部当ててるんだよ。超能力者か!」


「えーマジか!」


 うん、やっぱり以前と同じ内容だ。店よりもツーブロックリーマンの彼女の方が最悪だったとかいう。でも、彼女の話の詳細までは聞けずじまいだったんだよね。


「で、どうしたの。店員に言った?」


「言ったよ、面倒なクレーマーだと思われるのを覚悟のうえで、店長が近くを通り掛かった時に呼び止めてさ。そしたら──」


 店側はちゃんと対応してくれた、と。でも……


「でもな……最悪だったのは店じゃなくて彼女の方だったんだよ。別れようかなって本気で考えたくらいに」


「え、何で何で。何があったよ」


 よし、今回は店が混もうが何だろうが、粘りに粘って最後まで聞いてみよう……むふふふふ。


「それがさ、店を出た後──」


「お待たせしました、モーニングセットBです」


 わたしの時と同じ店員──勿論以前も同じ──が、サラリーマン二人の注文分を持ってきた。


「あ、どうもー」


「あざっすー」


「ごゆっくりどうぞ」


 二人共、わたしと同じモーニングセットB。


 ……ん? あれ?


「俺、モーニングはここのが一番好きなんだよな」


「わかる。色んな店があるけどおれもこの店のが一番いいわ」


 ツーブロックリーマンはスーツの内ポケットからスマホを取り出した。


「あれ、会社から二回も不在着信きてる」


 天パリーマンも自分のスマホを確認する。


「おれは何もないな」


「あーあ、これから食うところなのに。ちょっくら電話してくるわ」


「おう、先食べてるな」


 ツーブロックリーマンはスマホ片手に店を出ていき、天パリーマンはサラミサンドイッチに齧り付いた。


 おかしいな……以前あの二人が頼んでいたモーニングってそれぞれ別で、ツーブロックの方はAじゃなかったっけ。


 いや、まさかね。わたしが無理矢理介入でもしない限り、変わるわけがない。記憶違いだよね。


 サラミサンドイッチを食べ終わってからは、ホットコーヒーをちびちび飲む事で粘った。


「俺も早く食べちまわねーと!」


 やっとツーブロックが戻ってきた時、わたしのコーヒーは半分以下になっていたし、天パリーマンも食べ終わろうとしていた。


「お、どうだった?」


「所長から、イシグロ商事との案件についてだった。先方の担当、ちょっと神経質っていうかさ。さっきも所長のケータイに朝一で電話きて、あれはどうなんだこれはどうするんだって質問責めされたらしいから、俺から先方に電話しておいた」


「お疲れ~」


 ツーブロックが黙々と食べる間、天パはスマホを弄っていた。わたしとしては、早く話の続きが聞きたいんだけどなー……。


 ツーブロックは最後の一口をドリンクで流し込むようにして胃袋に収めると、慌ただしく立ち上がった。


「ごちそうさん! 行こうぜ」


 はああっ!?


 危ねっ、思わずコーヒーカップを落としそうになった!


「え、大丈夫か? ちょっと休んでかなくて」


 そ、そうだよそうだよ! 天パの言う通り、休みながら雑談しなよ! ほらさっきの続きを、結末を……!!


「ん、平気。混んできてるし、席空けようぜ」


「そっか。じゃあ行こう」


 お、おのれツーブロック……! 天パももっと粘れっての!


 結局話の続きは聞けずに終わり、一人残されたわたしは、開き直ってゆっくりコーヒーを飲み続けたのだった……。




 店を出たのは、以前よりもちょっと遅い時間だった。


 果たしてクレババは、まだ和菓子店で騒ぎ立てているのだろうか。店員の二人が土下座させられなければいいな。


 心配ではあるけど、わざわざ確かめに行ってまたバトるのは、正直気が乗らない。ごめん。誰かがわたしの代わりに解決してくれていますように……。


 さて、それじゃあ今回はどう過ごそうかな。




〝このままループを続ければ、あんたはいずれあいつに喰い殺される。あるいは先に精神が崩壊するか……どちらが早いだろうな〟




 あの謎の少年カズキから聞かされた話が気にならないわけじゃない。でもさ、気にし過ぎてせっかくの自由な日々が楽しめなくなっちゃったら損じゃない?


 ……いや、最近はあんまり楽しめなくなってきつつあったけど! あったけど!


 でも、わたしはこの生活をやめない。絶対やめないぞ。


 そんな事を考えながら最寄駅の前までフラフラ歩いてやってきて、急に思い立った。


 そうだ、水族館に行こっと。

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