始まり
その後のその人の行動はとても早かったですわ。
回復したルイスとルーカスがその方に切りかかて、その方に返り討ちにあっていました。
「では行きましょうか、お姫様」
2人をブン投げて遠くにやったその方は、私に向かって恭しく手を差し伸べてきた。
ヘタなそこら辺の騎士より様になっていた、格好が不審者なのが残念なところだ。
手をつかむべきか迷っている私に、その方は小さな声で囁いた。
「行こうよ、シーア。君にあんな馬鹿王子は似合わない。君が勿体ないよ」
シーア
私のことをそう呼ぶのはお父様とカイル以外では1人しかいない。
「あ、ああ貴女はま、まさか」
「さぁ、行きましょう!貴女の輝かしい未来へ」
彼女は私の手を引っ張り立たせた。
無理矢理跪かされていたせいか、膝が少し痛かったがそんなことは今はいい!!
どうして貴女がここにいるのですか!?
覆面のせいで顔も声も分からないけれど、私は彼女が誰だか分かった、分かってしまった。
貴女は、また、私を救ってくれたのね………
彼女と私は学園を抜け出して森の中に潜んでいた
「おーい!虎太郎ー、こっちだよー!」
彼女の呼び声に、森の奥から巨大な獣が歩いてきた。
その獣は見事な毛並みの美しいホワイトタイガーだった。
もう、間違いはない
「どうして、どうして貴女がここにいるんですの?───二ケ」
小柄な彼女の背丈程の大きさのあるホワイトタイガーを撫でていた二ケは覆面を取りながら流れる黒髪を軽く纏めた。
「どうしても何も、君がさっきの馬鹿王子と婚約披露宴があるから出席しようとあっちこっちに頼み込んだんだよ。早めに来て君を驚かせようと思ってね」
二ケは微笑みながら私を見つめた。
「そしたら君はあの馬鹿王子と馬鹿騎士に殺されかかっているし、私は立場があるからこんな格好で君を颯爽と助けにはいったのさ」
えっへん、と格好つける彼女に、思わず声を上げて笑ってしまった。
「あははは、そうよその格好よ。その格好は一体何なの?」
「これ?この格好は私の国の隠密が着ている忍び装束だよ。似合ってる?」
その場でクルリと一回転して見せる二ケに私は更に笑った
「シーア、追っ手が来る前に早く行こうか。ほら、虎太郎に乗って乗って」
二ケは私を虎太郎に乗せてその後ろに彼女も乗り込んだ。
「実を言うと私は頼まれただけなんだ。シーアを待っている人がいるよ」
私達を乗せて走っている虎太郎の上で二ケがそんなことを私に言った。
「頼まれたって……」
一体、誰に?
その答えは王都に入る直前で分かった
「二ケ殿、シンシア様!」
「貴方は………ローベルト様!」
「やぁ、ローベルト殿。シンシア様を無事に馬鹿王子と貴方の愚弟の手から救い出したよ」
そこに現れたのはルイスの兄、ローベルト様だった。
虎太郎の上からローベルトのエスコートで降り立った私の前に、ローベルトは私の前に跪いて詫びてきた。
「申し訳ありません!ルーカス殿下と愚弟とその他の貴族子息によって傷付けられた貴女の名誉は、必ず挽回すると陛下が仰っていました。私も微力ながらお手伝い致します。愚弟が本当に申し訳ありませんでした!!」
ローベルト様の声は、酷く震えていた
私は首を振るった
「顔を上げて下さい。ローベルト様。貴方には何の罪もありません」
事実、彼に罪なんてない。私に罪がなかったように
「でもローベルト殿、本当にシンシア様は危なかったですよ。私が後一歩遅ければ、彼女の首は第2王子と貴方の弟君の手によって落とされていました」
「なっ」
絶句したローベルト様に私は何も言えなかった。
今、私がごまかしたところで調べれば分かってしまうことだ。ならば無理に誤魔化す必要は無いだろう
ローベルト様は俯いて肩を震わせている
激情をひたすら抑えているのだろう、手袋から血が滲んでいるのが分かる
「あのっ………馬鹿が!!」
血の滲む手を、私はそっと包み込んだ
私の顔を見つめてくるローベルト様に、私は微笑みかけた
「私を迎えに来てくれたのでしょう?連れて行って下さい。ローベルト様」
「………シンシア様」
そんな2人の様子に二ケは優しげに笑い、手を振りながら踵を返した
「私はこのまま帰らせていただきます………またねシーア、近いうちにまた会いに行くよ」
「……そう、ですね。他国の貴女がこのままこの場にいるのは国際的にも不味いですし、手を貸して頂きながらお礼も出来ず」
「構いませんよ。私が好きでしたことですし」
「……二ケ、本当に、ありがとう」
二ケはホワイトタイガーに跨がり、駆け出していった
「行きましょう、シンシア様」
「はい、ローベルト様」
これから何が待ち受けているのか分からない。第2王子やレベッカ様の取り巻き共のことがまだ残っている。
けれども私はこれからの人生になんの不安もないの。だって私にはお父様や陛下と王太子殿下、王太子妃殿下、ローベルト様が味方になってくれているんですもの。
それに二ケ、彼女には二度も助けられたんですもの、みっともない姿は見せられないわ
だから私は他国の人間である彼女が無償で我が国に手をかした事実を生涯に渡って隠し通すわ。このことが知れれば我が国と彼の国で戦が起こるかもしれないのだから
私は真実を葬ろう




