第19話 間合い(まあい)
食堂の竈には、もう火が入っていた。
壁の時計を見上げる。針は、いつもの刻限を指していた。賄いの女が鍋の蓋を持ち上げると、湯気が梁のあたりまで立ち上った。
リナムーアは椀を四杯空け、黒パンを二つ布に包んでポーチへ入れた。向かいの卓の男が椀の数を目で追っていたが、やがて何も言わずに自分の皿へ戻る。この数に驚く者は、もう食堂にいない。
本館の脇を抜けて支部の門から街路へ出る。区画の門を一つくぐり、魔境側の大門へ着く頃には、東の際がうっすらと白んでいた。
「気をつけてな」
門兵が閂を外しながら、軽く顎をしゃくった。
「いい風だ。今日も過ごしやすい」
「はい。門灯までには戻ります」
畳んだ大きいほうの採集袋を抱え直して、リナムーアはくぐり戸を抜けた。
風が頬に当たる。温くも冷たくもない、いつもの風だった。
(……今更だけど)
この草原を初めて歩いた朝は、暗いうちに宿舎を出て、外周壁を抜ける頃にようやく夜が明けた。あれから日の出は、ずいぶん繰り上がっている。起きる刻限も食堂へ下りる刻限も、それに合わせて少しずつ前へずらしてきた。
動いたのは、それだけだった。
草の丈も、風の温さも、下生えの緑の濃さも、初めて来た朝と何ひとつ違わない。
(本当に、一年を通して変わらないんだな)
図書館の地誌の棚で読んだ話を思い出す。この世界の気候は土地ごとに定まっていて、一年を通してほとんど動かない。魔素の分布をはじめとする、世界の法則によるものだという。
(日の長さは、前の世界と同じように伸び縮みしている。地軸は傾いているんだろう。前の世界なら、それで季節が巡った。ここでは、日の長さだけが巡って、暖かさがついてこない)
地誌によれば、隣り合う土地の気候がまったく別ということも起こる。一年中焼けつくように暑い土地と、極寒の土地が地続きで接している、という一節には、さすがに手が止まった。アーヴェスト辺境伯領の気候は、暑くも寒くもないところで定まっている。前の世界でいえば、一年中が春のような土地だ。
前世なら、半年もあれば景色は総入れ替えになっていた。息の白かった朝が、いまごろは蝉の声に変わっている。ここでは、景色が一度も入れ替わらない。
四季という言葉は、書物の中にはある。遠い土地から伝わってきた知識で、この土地の人間の口に上ることはまずなかった。
人目がなくなったところで、リナムーアは体の栓を抜いた。
丈の低い草が後ろへ流れる。四キロは、もう長さの話ではなくなっていた。
樹縁を越え、『空識』の下絵が拾う当たりの株だけを回って、葉を落としていった。
小さいほうの採集袋が満ちるたび、大きいほうの採集袋へ移して森へ戻る。何杯目かを数えるのは、とうにやめていた。
大きいほうの採集袋の口が閉まらなくなったところで携帯時計を出し、刻限を覚えた。
括って背負い上げる。肩の紐が鎖骨へ食い込む感覚にも、そろそろ慣れた。
▽ ▽ ▽
窓口の台が低く鳴っても、ミオはもう驚かなかった。
「今日は早いですね」
「一時半に、口が閉まらなくなりました」
「……そうですか」
ミオは台帳へ重さを書き入れ、硬貨箱から小銀貨を四枚並べた。
「四百ムーアです」
ホールは静かなままだった。長椅子の冒険者たちは、大きいほうの採集袋のほうを見もしない。隣の窓口にいたドルグが、毛皮を押し出しながら片手を上げただけだ。
「よう」
「こんにちは」
初めて大きいほうの採集袋を置いた日、ホールの話し声はいっせいに途切れた。それが十日ばかりで、片手を上げるだけの挨拶に落ち着いている。人が慣れるのは早い。
リナムーアは小銀貨を腰の硬貨入れへ落とし、それから窓口の台の上へ掌を置いて、ミオを見上げた。
「ミオ。聞きたいことがあります」
「どうぞ」
「宿舎の部屋は、いつまで借りていていいんですか」
ミオのペンが台帳の上で止まった。
「一日で銅貨二枚だと、前に教えてもらいました。朝夕の食事も、住んでいる人は無料だと。資料室へ入る許可も、サリナに走りを見てもらうことも、わたしは一度も払っていません」
「……ええ」
「いまは払えます。だから、いつから払うのか、いつまでなら払わなくていいのかを、先に知っておきたいんです」
ミオはペンを置いた。答えるより先に、受付のほうから足音が近づいてくる。
「部屋のことね」
サリナが窓口の台の端へ肘をついた。話の途中から入ってきたにしては、迷いのない声だった。
「あれは、借りているものではないのよ。ミオと私がギルド長から取ったものなの。あなたが薬草採取を活動のまんなかに置く、その代わりに支部が出すもの。期限は決めていないわ」
「資料室の許可も同じです」
ミオが続ける。
「薬草と魔物の知識は、採取に出る人に要るものです。支部が出して当たり前のものとして通っています」
「走りを見るのもね。採取に出た人が生きて帰れるようにするのは、受付の仕事のうちよ」
受付の仕事に、そんなものが入っているはずはなかった。放っておけないのだと、言い方を変えているだけだ。それはリナムーアにも分かったので、黙っておいた。
リナムーアは二人の顔を順に見た。
「……つまり、期限は」
「無いわ。あなたが薬草採取をやめると言い出さない限り、ずっとそのままよ」
「払うと言ったら」
「困ります」
ミオがはっきりと首を振った。
「支部が出すと決めた代金をあなたから受け取ってしまうと、帳簿のどこにも載せる場所がありません。私は窓口の人間ですから、載せられないお金は扱えないのです」
「それに、ギルド長が受け取らないわ。あの人が欲しがっているのはお金ではないもの」
リナムーアは窓口の台の上の指を一度握って、開いた。
(……無期限、か)
期限が切られていたなら、そこまでに間に合わせるという話だった。切られていないなら、どこまでやるかは自分で決めるしかない。ありがたいが、同時に逃げ場も無い。
腰の硬貨入れの中で、受け取ったばかりの小銀貨が鳴った。銅貨四枚の頃から、受け取るたびに数え直してきたその中身は、もうじき斡旋の手数料に並ぶ。
もっとも、この額がそのまま支部の儲けになるわけではない。ゴブリンの魔石と同じなら、支部の手元に残るのは卸す値との差だけだ。
それでも比べる相手は、払われた額のほうでいいはずだった。買い取りの値は決まっているから、払われた額はそのまま自分が働いた量になる。誰もやりたがらない採集が毎日欠かさず納まっていく分も、差とは別に支部の得に入っているのだろう。オグマが欲しいのが金ではなく働きなら、物差しはこれしかない。
手数料に並んでも、それで済む話ではなかった。ミオが付きっきりで世話をしてくれた日々にも、サリナが走りを見てくれる時間にも、値は付いていなかった。
(……返し終わる、という形にはならないな)
決められるのは、どこまでやるかだけだった。いまの採り方では、稼ぎはもうこれより増えない。増やすなら、外縁部の先へ出ていくしかない。
「ミオ。サリナ」
「はい」
「夕方、訓練場で話したいことがあります。二人とも来てもらえますか」
二人が顔を見合わせた。
「……いいけれど。何かあったの」
「そのときに」
リナムーアは空になった大きいほうの採集袋を畳んで抱え上げ、ホールを横切っていった。
ミオは台帳を閉じ、それからサリナを見上げた。
「サリナ。嫌な予感がします」
「するわね」
▽ ▽ ▽
支部の敷地の奥、木立を背にした一角が訓練場だった。
土をならしただけの広場で、隅に的と藁の人形が立ち、壁際の武器掛けに木剣や盾が並んでいる。四隅の柱には魔道具の灯りが取り付けられていて、日が落ちても使えるようになっていた。
日が傾いて土に長い影が伸びる頃、サリナとミオは並んでそこに立っていた。
「それで」
サリナが腰に手を当てた。
「何のお話かしら」
リナムーアは二人の正面に立って、頭を下げた。
「近接の戦い方を教えてください」
ミオが息を呑む音がした。
「……近接」
「はい。木剣でも素手でも構いません。サリナに見てもらいたいんです」
「リナムーア。どうして急に、そんな話になるのですか」
「ミド草です」
ミオの眉が寄った。
「浅層の、ミド草ですか」
「はい。ボド草の十倍の値が付きます。大きいほうの採集袋を一杯にすれば、四千ムーアです」
「……それは、そうですが」
「外縁部で採れるものは、いまの採り方で上限まで来ました。採集袋はこれ以上大きくなりませんし、一日が二度来ることもありません。わたしにできることを増やそうとしたら、採る草を変えるしかありません」
ミオは何か言いかけて、口を閉じた。
「浅層は外縁部とは違います。弱いものばかりとは言えない場所です。あなたには早すぎると、初めに言いました」
「覚えています。あのときは、体がありませんでした」
リナムーアは自分の手首を、もう片方の手で軽く握ってみせた。
「いまは二十キロを担いで四キロを走れます。戦うことに耐えられる体は、もうあるはずです」
「……ある、と思います。私が見てもそう思います。でも」
「でも、戦い方を知りません。だから教わりたいんです」
ミオは助けを求めるようにサリナを見た。
サリナはすぐには答えなかった。腕を組み、リナムーアの爪先から頭までを一度眺め、それから土の上へ視線を落として、しばらく黙っていた。
「いいわ」
「サリナ」
「ミオ。止めても行くわよ、この子は」
「……それは」
「行くなら、教わってから行ったほうがいいでしょう」
サリナは壁際の武器掛けへ歩いていって、短い木剣を一本抜き取った。大人が片手で振るための長さで、リナムーアなら両手で持つことになる。
「ただし、条件があるの」
「はい」
「近接だけでは足りないわ。遠くから当てるほうも、同時にやるのよ」
リナムーアは瞬きをした。頼んだのは近接の一つで、遠距離までは頼んでいない。
そこまで考えて、一つ引っかかった。サリナの二つ名が遠くへ届かせる技から付いたものだということは、前に聞いている。走りを見てもらってきた相手だから頼んだだけで、近接を教わる相手として正しいのかは、考えていなかった。
「サリナは弓の人ですよ」
ミオが横から言った。顔に出ていたらしい。
「でも、Aというランクは、苦手を一つでも残したままでは届かないところなんです」
「間合いの内側へ入られて終わる射手は、そこまで生きていられないのよ」
サリナは木剣を軽く振って、手の中で持ち替えた。その一往復に迷いがないのを、リナムーアは黙って見ていた。
「遠くから当てるほうは、弓ですか」
「いいえ」
サリナは隅の木箱から何かを取り出した。二又に分かれた木の枠で、又の先から先へ、幅の広い革の帯が渡してある。帯の中ほどには、弾を包むための革の当てが付いていた。
「スリングショットよ。弾を飛ばすの」
「……弓では駄目なんですか」
「駄目。まず、矢がもたないわ」
サリナは指を一本立てた。
「一本二十ムーアよ。的に当てても羽は傷むし、外せば草の中を探すことになるの。当たるようになるまでに何百本も撃つのだから、それを毎日やったらどうなると思う」
「……宿の一日ぶんが、一本ずつ消えます」
「そういうこと。スリングショットなら弾はそこらの石で足りるわ。外したら拾えばいいし、拾えなくても困らない。枠そのものも安いのよ」
それから、サリナはリナムーアの腕を一目見た。
「それに、あなたの腕の長さで引ける弓は、まだどこにも売っていないわ」
それはどうしようもなかった。中身をどれだけ繕い直しても、骨の長さだけは変えられない。
「分かりました。両方やります」
「重いわよ」
「はい」
ミオがリナムーアの前に膝を折り、目の高さを合わせた。
「私からも一つ、条件をつけます。浅層へ行くのは、サリナがいいと言ってからにしてください。あなたが決めるのではなく、サリナが決めます」
「……はい」
「約束できますか」
「約束します」
ミオはしばらくその赤い目を見ていたが、やがて立ち上がって制服の膝を払った。
「では、止めません」
▽ ▽ ▽
訓練は、夜になった。
日のあるうちは採取の時間だ。夜明け前に出て、樹縁で半日、昼過ぎに納品して、午後は資料室と図書館。裏庭の走りもそのまま残した。サリナが受付の帳面を閉じてから来るので、訓練場の柱に灯りが点くのは、いつも門灯の点いたあとだった。
木剣については、初日で分かったことが一つあった。
速さだけなら、リナムーアにもあった。体の栓を抜いた最初の一振りで、サリナが子供の相手のつもりで合わせていた速さを、あっさり上回った。サリナは眉を上げただけで、次に構え直したときには身体強化を一段上げて合わせていた。それからは、一度も当たらない。
サリナは踏み込まない。一歩下がり、半歩斜めにずれる。振り下ろした先には土しかなく、戻そうとした腕の途中を木剣の腹が軽く叩いた。
『空識』はサリナがどこに立っているかを教えてくる。足の向き、肩の高さ、重心の乗った側まで分かる。分からないのは、次にどこへ動くかだった。
「位置は見えているのね」
サリナが木剣を下ろして言った。
「はい」
「見えているのに当たらない。なぜだと思う」
「……分かりません」
「あなたが振り始めてから当たるまでの間に、私が動けるからよ」
サリナは木剣の先で、土に線を二本引いた。
「これが私の間合い。これがあなたの間合い。あなたのほうがずっと内側にあるわ。腕が短いのだから当たり前ね。あなたが当てられるのは、この線の内側だけ。そこまで入るには、私の線からあなたの線までを越えなければならないの。その間に、私は二度振れるわ」
線と線のあいだの、大人の一歩ほどの帯を先で叩く。
「ここをどうやって越えるか。それが近接よ。速さの話は、そのあとなの」
スリングショットのほうは逆だった。
初めの一発は大きく外れた。腕の長さも引く力も前世とは何もかも違うのだから、そうなって当たり前だ。外れた向きと落ちた先を、革の帯を放した瞬間の手の中の感触と突き合わせる。二発目で寄り、三発目で藁の人形の肩を掠め、五発目には胴の真ん中へ入った。
的までの距離は『空識』が数で返してくる。十五メートル。革の帯をどこまで引いたかは『己識』が指の中で教えてくる。あとは、その二つを結ぶ線を引くだけだ。
やり方そのものは、初めてではなかった。
前世の子供の頃、これとほとんど同じ形のものを持っていた。二又の枝にゴムを張っただけの玩具で、空き缶を並べては一日中撃っていた時期がある。放した弾がどう飛んでどう落ちるかを、体ではなく頭のほうが覚えている。
大人になってからも、遠くへ当てる遊びばかりやっていた。実際に弓を引いたことは一度も無い。それでも、距離と落ちる分を勘定して的の先へ置く、という手順だけは残っていた。
さして日を掛けずに、訓練場の備品の枠でも拳ほどの的を続けて抜けるようになった。
帰り道に石を拾う習慣も付いた。草原の窪みや大門のわきには、手頃な丸い石がいくらでも転がっている。大きいほうの採集袋を背負ったまま身を屈めて拾い、腰の弾入れへ落とす。一日に二十も拾えば、その夜のぶんは足りた。
「止まっているものは、もういいわね」
そうなった夜の終わりに、サリナは的へ空いた穴を指でなぞり、それから独り言のように続けた。
「……明日、別のものを持ってくるわ」
▽ ▽ ▽
次の夜、サリナは布に包んだものを抱えて訓練場へ来た。
柱の灯りを四つとも点けてから、土の上でそれを開く。二又の枠と、革の帯。形そのものは備品と変わらないが、枠はひと回り小さく、握りのところが細く削り直してあった。
「武具店のガルドに頼んだの。あなたの手に合わせてあるわ」
「……ありがとうございます」
リナムーアが受け取り、枠を握って軽く持ち上げる。
サリナが見たかったのは、そこから先だった。
小さくしたのは枠だけで、帯のほうはまるで逆に作らせてある。備品より厚く、幅も広く、指で押しても少しも沈まない。身体強化を回さない大人が引いても、頬までは届かない固さだ。ガルドは受け取った寸法を二度読み返して、それから子供に持たせるものではないと言った。
子供の腕で引けるものではない。それは分かっていて、そう作らせた。二十キロの採集袋を担いで草原を渡った子だ。引けるはずだと踏んでいた。
踏んではいたが、一度は空振りするだろうとも思っていた。
リナムーアは弾入れから丸い弾を一つ取り出し、革の当てに包んだ。
そして、引いた。
軋む音も、唸る音もしなかった。帯は抵抗らしい抵抗を見せずに伸び、そのまま頬の横で止まった。細い腕は震えていない。三つ数えるあいだ、狙いは少しも動かなかった。
サリナは、自分が息を止めていることに気づいた。
(……あれは、私でも強化を回さなければ頬まで届かないのよ)
背丈は七十五センチのままだ。腕も脚も細いままで、白いワンピースの下で何が増えたのかは、相変わらず何ひとつ見えない。それでも重くなり、走るようになり、採集袋を担ぐようになって、いまは強化を回さない大人には引けない帯を、魔力の測れない子供が顔の横で止めている。
(どこまで強くなっているのかしら、この子)
弾が放たれた。
藁の人形の胴で鈍い音がして、藁が飛び散った。弾はそのまま人形を抜け、後ろの木の幹に当たって落ちた。
サリナは人形のところまで歩いていって、空いた穴へ指を入れた。指は向こう側まで通った。
「二センチの弾でこれよ」
「はい」
「ゴブリンなら、一発で終わるわ。頭でも胴でも同じ」
それから人形の紐を解き、木立の枝へ吊るし直して、横へ大きく振った。
「動くものは、当てたい場所ではなく、そこへ来る場所を撃つのよ。……それは、数を撃たないと」
そこまで言ったところで、リナムーアが引いた。
狙っている先に人形はいない。振れた人形がこれから戻ってくる、何もない空のほうだ。止める間もなく弾が飛び、揺れてきた胴がそれを受けた。
もう一度振らせて、もう一度当たった。三度目も同じところへ入る。
サリナは人形を掴んで止めた。
「……リナムーア」
「はい」
「いま、どこを狙ったの」
「人形のいない場所です。弾が着く頃には、そこへ来ているので」
サリナは吊り紐へ手を掛けたまま、しばらく黙っていた。それから、短く息を吐いた。
(教えることが、一つ減ったわ)
「近接のほうを、もっとやりましょうね」
「はい」
その夜から、訓練のほとんどは近接になった。
十数日が過ぎても、リナムーアの木剣はサリナに届かない。届かないまま、踏み込む足の置き場所だけが毎晩わずかに変わっている。走路の本数を数えるのをやめた代わりに、サリナは毎晩、その足の置き場所を確かめるようになった。
その夜も、訓練場の土には撃ち終えた弾が散らばっていた。サリナは柱の灯りを一つずつ落としていく。四つ目が消えると、残ったのは外壁の上の門灯の明かりだけになった。
振り返ると、リナムーアが土へ屈んでいた。弾を一つ拾い、また一つ拾い、腰の弾入れへ落としている。土の冷えた匂いと、弾の触れ合う小さな音が交互に続いた。
最後の一つが拾い上げられ、弾入れの口が絞られる。
サリナは壁際の武器掛けへ木剣を戻し、その小さな背が立ち上がるのを待った。




