第三話 杪夏
――20XX/7/17/12:00
今日は夏休み前日である。
かなちゃんの一件から約二週間が経過していた。
俺はその期間に三人の幽霊を成仏させていた。
幽霊の単位って人でいいのかな。そんな疑問はどうでもいいけど。
一人目は、バンドマンのロックでかっこいい男だった。
なぜかライブでバンドをすることになった。なんでやねん、と言いたいところだが……まあいい。
二人目は、海を見たいという車いすに乗った少年だった。
もちろん海に連れていき、成仏してもらった。
三人目は、目の見えない少女だった。
これは……また大変で、花火を見たいと言い出して、霊眼という目を作り出して俺は死にかけた。
と言った感じ……。疲れるけど、嫌な気はしなかった。
誰かを救うというのも悪くないものだ。
日が経つごとに紅葉との絆も深まっている。
今は自信をもって相棒と言える。
「相棒!」
「なんだ。急に気持ちわりーな」
こいつは多分ツンデレだと思う。いや、ツンツンツンデレかな?
「こんな雨の日によくも元気でいられるな。憂鬱だ」
「まあな。明日から夏休みだし」
「夏休みか……俺は打ち上げ花火を見てーな」
「じゃあさ、今度の夏祭り一緒に行こっか」
「ああ……」
なんか照れてない? っていうか……。
「紅葉って目は見えてんの? どこにあるんだ?」
「360度、全部見えてるぜ」
「すげーな、便利すぎんだろ。見え方キモそうだけど」
「ははっ、きめーけどもう慣れた。百年だかんな」
「そっか……百年だもんな」
百年も本でいられる紅葉は、正直言ってすげーと思う。
終わりはあるのだろうか。ふと、そんなことを思ったけど口には出さなかった。
「神楽、この道を曲がって廃バス停に行け。五人目の成仏だ」
「りょーかい」
――この時の俺はまだ知らない。あの幽霊のせいで……事件に巻き込まれ、いや首を突っ込んだのは俺の方なのに……。
いまだに葛藤が続く、このとき行かなかったら、もっと幸せでいられたのかな。
嘆いたって無駄なのに……。俺のせいで大量殺人が起きるなんて、想像もしたくないよ……。
俺たちは廃バス停に着いた。
「ここって……」
この場所は知っている。
雨の日になると、女の幽霊が立っていると噂がある場所だ。
遡ること50年前、成人式前夜に起きた殺人事件の被害者である。
雨の日連続殺人事件――最後の被害者。
「いるな……。いまいまい……」
「いまいまい? 呪文か?」
「違うよ。あの幽霊の名前、今井麻衣」
「なるほどねー、ってかなんで知ってるんだよ。知り合いか?」
「ちげーよ。このあたりじゃちょっと有名だからな」
俺は幽霊に近づいた。その瞬間、異変を感じた。
これはヤバい。空気が変わった。重い……息ができない。
「おい神楽! しっかりしろ!」
紅葉の声が耳をすり抜けた。何か言ってる……。
動けない。金縛りというやつだろうか。
気持ち悪い。今すぐにでも吐き出したい。
紅葉の声も、雨音も、何も聞こえなくなった。
視界が霞む。体に力が入らなくなった。
ごめん、紅葉。本落としちゃった……。
濡れてない……?
大丈夫……?
「高橋くん……」
この声だけが耳に届いた。
名字を呼ばれた。この女の幽霊、今井麻衣は一体……。
前に倒れこんだ俺には、走馬灯のようなものが見えた。
あれは先週の出来事。
図書委員で放課後に残っていたとき、辞書を手に取りパラパラとページをめくった。
開いたページで一番最初に目についたのは、「杪夏」だった。
夏の終わりという意味があるらしい。
俺には、夏の終わりなんて来なかった。夏の終わり、ましてや夏休みも何もかも……。
気づいたころには、気を失っていた――。




