97話
防備を持っているからと呪われてはたまらないと、呪いの標的に指名された生徒たちが抗議の声を上げる。しかし鬼瓦先生から、呪いの防備があると豪語していたじゃないかと詰められて、なにも言えなくなってしまったようだ。
結局、その生徒たちは、他の生徒たちから呪いを向けられる先になった。
「さて、呪いの方法についてだが。とても簡単だ。呪う相手の血液を墨に混ぜる。その墨で、呪いたい人物のフルネームを紙に書く。そして、その紙を燃やす。これだけでいい」
そう説明を受けて、満景は小首を傾げる。そして首を傾げたのは、他にも数人の生徒がいた。
その満景を含む生徒たちに向けて、鬼瓦先生は訳知り顔になる。
「恐らく、呪術に詳しい家の出身者からすると、こんな嫌がらせ程度の効果しかない呪いは、呪いじゃないとな。その気持ちは分かるが、呪いを受ける方も、呪い返しをされても、問題ない程度の呪いとなると、このぐらいの呪いが適していると思わないか?」
満景を含む生徒たちは、それもそうかと一様に納得した。
ここで小里が、満景の肩を突いてきた。
「この呪いは嫌がらせ程度だって言ったけど、そんなに弱いもんなん?」
「短い期間だけ、運気を下げる呪いだからね。詳しく言うと、自販機に小銭を入れようとして落とすとか、解けた靴ひもを踏んで転びそうになるとか、会いたくなかった人に道でばったりと出くわすとか、そういった小さな不幸に出会う呪いだよ」
「影響、小っさ。でも、じみーに嫌な呪いじゃん」
「この呪いを受けたとしても、不幸な日だったなって印象で終わるだけだよ」
「ちなみにさ、呪い返しすると、元の呪いの何倍も強い呪いとなって術者に返るって言うっしょ。じゃあ、この呪いが呪い返しされたら、どんな感じになるん?」
「大して変わらないよ。ちょっと期間が延びるとか、不幸に合う回数が増えるとかじゃないかな」
この満景と同じ説明を、先ほど小首を傾げていた生徒たちが同じ班員の生徒にしている様子がある。
その説明が耳に入ったのだろう。呪いの標的に指名された生徒たちは、大した呪いを食らうわけじゃないと知って、気楽な様子になった。
「よーし、やることは分かったな。各班、誰を呪うか話し合って決めろ。標的は早い者勝ちで、重複はなしだ」
満景は指示通りに話し合って、若槻の次に鬼瓦先生に抗議の声を上げた人物に決めた。
その生徒の指に、医療用の針を指して血液を浮かばせ、その血液を硯の中の墨汁に一滴垂らし入れた。
小筆の先で墨と血液をしっかり混ぜてから、短冊の紙に呪いの標的である生徒の名前を書いていく。名前を書く役目は、満景の班の中でその生徒の名前を唯一知っていた、小里が担当した。
そうして書き上がった名前は『佐藤 清』だった。
その短冊を手に持って、小里は満景に質問した。
「よくありそうな名前だけどさ、他の佐藤清さんに呪いが行ったりしないもんなん?」
「名前だけなら、そうなることもあるよ。だけど今回は、生徒の佐藤清くんの血液を墨に混ぜたでしょ。その血液が呪いを送る縁となるから、同姓同名の他の人には向かわないはずだよ」
「ほーん。ちゃんと考えてあんだ」
小里は納得すると、手にある短冊をギヤマンに差し出した。
「……オレが呪いをかけろってのかよ」
「だって、満景は呪いについて解説したっしょ。私は字を書いたっしょ。ももかちゃんは神様関係で見学。となると残るは、候補は力雄とギヤマンと芍香ちゃんでしょ?」
「他にも二人候補がいるじゃねえかよ」
「力雄は見た目はイカチーけど、人を呪ったら延々と気を病みそうな性格じゃん。やらせたら可哀想っしょ?」
「なら手水舎にさせりゃいいだろ。図太さなら、この班の中で随一だろうしな」
ギヤマンの吐き捨てるような言葉に対し、手水舎が微笑み顔を向ける。
「やれというのなら、やってもよろしくてよ。ですが、淑女を矢面に立たせて安穏とするだなんて、男が廃るんじゃありません?」
「今の時代、男だの女だの言う方が世間知らずだろ」
「わたくしが言っているのは、貴方が受けてきた教育に対してですが? 貴方の親や先達は、女の後ろに隠れることを良しとせよと教授なさったので?」
手水舎のからかい含みの言葉に、ギヤマンは歯ぎしりする顔になる。
「ぐぐぐっ。チッ、分ったよ。オレがやりゃあいんだろ」
ギヤマンは小里から短冊をひったくるようにして取ると、その短冊をヒラヒラさせて鬼瓦先生を呼び寄せた。
鬼瓦先生は、短冊にしっかりと呪う先の生徒の名前が書かれていることを確認すると、ライターと火受け皿を出してきた。
「全員準備ができたら一斉に行うから、それまで待つように」
鬼瓦先生は、満景の班から離れると、他の班の準備が整っているかを確認するため実習室を巡る。
そして全ての班の準備が終わったことを確認すると、鬼瓦先生は教壇に戻った。
「呪われる生徒は、自前の道具がちゃんと作動するよう、身構えておけよ。それじゃあ、全班。呪いをかけろ」
鬼瓦先生の指示に従い、短冊を持つ生徒たちは、その短冊にライターで火を付けた。




