95話
一通り、このビルの地下に隔離された、呪いを受けている人たちの観察が終わった。
エレベーターへの通路を戻りながら、生徒たちが浮かべている表情は様々だった。
満景は、様々な形態の呪いに触れる機会が得られたことに対し、興味深い時間だったと肯定的な顔をしている。
小里も、呪いについての情報が集まったことに対して嬉しがる顔をしている。
力雄は、いつも通りの厳めしい顔だが、呪われることに対する根源的な不安からか、顔色に陰りがある。
手水舎は、隔離されている人の身を案じている様子で、廊下を歩きながら背後の空間に心配する視線をチラチラと向けている。
ギヤマンは、特殊警棒を片手にイライラとした様子。だが、この廊下に入ってからの発言数の少なさを考えるに、気味の悪い場所から出たいと内心考えていそうだった。
そして、なぜか若槻は、仕方がないものを見た際に浮かべる、諦めの笑顔になっていた。
その若槻の笑顔に、小里が気付いたようだった。
「どうかした、ももかちゃん。もしかして、守護神がまたなにか言ってきてたり?」
「ううん、そうじゃないよ。もしかしたら、ちょっと道が違ったら、わたしもここに似た場所に入れられていたんじゃないかなって」
「守護神が憑いているからって?」
若槻の守護神は、若槻を守るためなら、周囲の被害に構わず力を振るう荒々しさがある。
仮に、若槻に害を及ぼそうとした者が守護神に排除される光景があったとする。その光景を傍目から見たのならば、若槻が謎の力に呪われていて周囲に被害を与えているように見えなくもないだろう。
そして呪いの被害を押さえるためとして、このビル地下にある施設のような場所に、若槻が収監される可能性もなくはないだろう。
しかし現実として、若槻自身が呪われているわけではないので、そんな措置が行われることはないはずだ。
若槻も、自分が抱いた懸念は考え違いだということを、理解しているようだ。
「大丈夫。ちょっと同情的になっちゃっただけだから」
若槻が気にしないでと身振りする姿を見て、小里は要望通りに話を別の方に向けることにしたようだ。
「それにしても、満景が呪いに詳し過ぎるのには驚いたね。流石は狗神使いの家の子だよねー」
「その家の基準では、僕は落ちこぼれだけどね」
「理由は、狗神を作れなかったからだっけ?」
「ペットとして飼っていた犬と猫を殺せと言われて、分かりましたと殺せるようじゃなきゃ、狗神使いにはなれないそうだよ」
「それって、人でなしじゃん」
「そもそも人を呪って飯を食っている家が、真っ当なわけないさ」
「それもそっか。色んな情報で飯を食ってる、私の家も似たようなもんだけどねー」
そんな雑談を交わしている間に、エレベーターの前に到着した。
ここで磐根先生が、生徒たちに振り返った。
「さて、これで今日の校外実習は終わりになります。皆さん、呪いの怖さについて理解できましたか?」
生徒たちが各々で同意の声を上げると、磐根先生は笑顔で頷いた。
「呪いの怖さを知ったのならば、おいそれと呪いに頼ってはいけないことと、呪いを受けた際に跳ね返すことが重要なことも分かったと思います。家の事情で呪いに関わらざるを得ない事情があったとしても、学生の間は距離を取ることをお勧めします」
磐根先生から視線を向けられていると知って、満景は苦笑いしながら返答する。
「生憎ですけど、僕は生家から追い出されてますから。呪いに関わろうとは思ってません」
「いいことです。昨今、霊能者の中にはは、お金持ちになるためにと呪いに手を出す人が多く出ているようです。皆さんは、たとえ霊能者として食べていけなくなっても、呪いをかける術者にはなってはいけませんよ。その場合は霊能者はすっぱりと諦めて、また別の自分の得意な仕事についてくださいね」
助言とも訓示ともつかない磐根先生の言葉に、満景たちは微妙な半笑いの表情で頷くしかなかったのだった。




