94話
満景が主体となって、呪われた人たちにある呪いの解析をしていく。
しかし、呪いについて多少の知識がある満景でも、多くの呪いが理解の及ばないものだった。
それでも、分かることはあった。
(多数の呪術師による呪いの複合か、一人の呪術師による単体の呪いかは、明確に分かるな)
満景は、とある二人の男性を交互に見比べる。
片方の男性には、様々な色が混じり合った毛皮のようなものが身体に巻き付いている。
もう片方の男性には、黒々とした太い蛇が足から頭まで巻き付いている。
両方とも、動物を呪術の核にした呪いで間違いないものの、見て受ける印象は真逆だ。
色が混ざった毛皮の方は、混沌としていて秩序がない。それどころか、色の違う毛皮のそれぞれが自己を主張するように、呪いをかけられている男性を激しく苛んでいる。
黒い大蛇の方は、まるで動いていないかのように静かな佇まいをしている。しかし、太い胴体で巻き付いている男性を常に締めあげていて、それが静かな様子と合わせて恐ろしさを感じさせる。
満景は、呪いの正体を観察し終えると、磐根先生に顔を向ける。
「先生。この二人にも、解呪を試したっていう資料ってありますか?」
「ちょっと待ってくださいね」
磐根先生はスマホで資料を調べてから、まずは多色の毛皮の呪いについて解呪をした際の状況について教えてくれた。
「そっちの男性は、解呪を施した際、幾人かの呪術師に呪い返しが起こったことが確認されてます。しかし呪いが解除できなかったことと、男性の呪われ具合に比べると呪い返しの程度が低かったことが、不思議な点として上げられているようですよ」
「それって多分、呪い返しが複数の呪術者に散ったことで、呪い返しが弱まったんじゃないかと思うんですけど」
「そうですね。原因予想の欄にも、そう書いてあります」
磐根先生は、次に黒蛇の呪いについてを語る。
「そちらの男性は、そもそも解呪が効かなかったようです。そして解呪を試した術者は、身体の血が固まる呪いを受けて瀕死になったみたいですね。解呪を試すだけで瀕死になる呪いなので、それ以降は解呪することはせず、こちらの施設に入居が決まったようです」
「血が固まる呪い、ですか? 呪いを受けている男性には、そんな兆候なさそうですけど?」
改めて黒蛇に巻きつかれている男性に目を向けるが、全身を締め上げられている様子はあれど、体内になにかが起きている様子は見えない。
磐根先生も、スマホに表示させている報告書に目を落としながら、不思議そうに首を傾げている。
「そうなんですよ。呪われた当人と、呪いを祓おうとした術者で、受ける呪いが違っている点が不思議だと報告されてますね」
「呪いの核が蛇な点は、見抜いてるんですよね?」
「もちろんです。でも、血を固める呪いを、そちらの男性にかけてない謎は残るでしょう?」
その謎については、満景も同意だった。
呪いは、かけ続ける場合、呪力を使い続ける。だから呪術者は、呪いをかける時間を短くしたい。
狗神は、そういう短時間で呪いを済ませる典型だ。
なにせ、狗神による物理攻撃で対象者を死に至らしめる呪いなので、うまくいけば呪い発動から数秒で片が付く。
そういう狗神使いの視点からすると、黒蛇の呪いの一つである血を固める呪いを対象者に使わない理由がない。
しかしここで、手水舎が意見を口にした。
「その男性を生きたまま長時間苦しめたいから、が理由なのではありません?」
たしかに手水舎の主張通りなら、黒蛇の呪いが対象者と解呪者とで効果が違う理由になり得る。
対象者には苦痛を与える一方で、解呪を行う者には即死級の呪いを与えることで自身を解呪されないようにする。
筋道は通っった理屈ではあるものの、満景には素直に頷けない理由があった。
「この呪いに支払い続ける呪力に見合わないよ。こんな強い呪いを成立させ続ける呪力を払い続けたら、僕の呪力だと他の活動が一切できないよ」
この満景の考えに、磐根先生も同意する。
「これほど巧みな呪いを組み上げる呪術者は、その道に名の知れた人物であるはず。それほどのプロが、この男性を呪い続けるためだけに、これまでのキャリアを棒に振るかと考えると、それは難しいのではないかと思います。加えて、この男性が呪われた時期と前後して、呪いの腕に長けた人物が引退や死亡したという情報はありませんし」
そして満景は、改めて黒蛇の呪いに向き直って、術者が恨みを持ってるという点にも疑問を抱く。
「恨みを込めて呪いを作ったにしては、この黒蛇の姿は静かすぎるよ。感情を込めてというより、淡々と呪っている感じがあるね」
「犬塚君が言う通り、こうも恨みや罰感情がこもってない呪いは珍しいんです。人が作る呪いだけでなく、神様が与える神罰も、基本的には対象者を恨んで行うものですから」
つまるところ、黒蛇の呪いは不思議な呪いである、ということしか分からないのだった。




