93話
満景が女性にかかっている呪いについて解説したところ、小里から質問がやってきた。
「随分と呪いに詳しいけどさ。この人を呪ったのって、ひょっとして犬塚家だったり?」
これに満景は、そんなわけないと身振りしてから答える。
「狗神の呪いは、その女性の呪いとは系統が違うよ。僕は犬塚家では、狗神を作れない落ちこぼれだったからさ。逆に、狗神以外の方法の呪術を知るために家にある文献から調べたから、その知識から分かったって感じだね」
「そんな言うほど、狗神と他の呪いって違うわけ?」
「主流の呪いは、対象者を不幸にするだったり、あの女性のように錯乱させたりだね。けど狗神は、対象者の体に直接的な傷を生む霊障を起こすものだよ。だから身体に傷がないのなら、それは狗神の呪いじゃないってことになるんだ」
この説明に、聞いていた一同は納得の顔になる。その中には、ここに連れてきた、磐根先生も含まれていた。
呪いの知識を得たからか、新たに手水舎が満景に質問を投げかけてきた。
「そこまで呪いに詳しいなら、ここにいる方々の呪いを解ける目算を立てられるのではなくて?」
「僕は呪いに関する知識はあるけどさ。その道のプロが、この場所に閉じ込めておくしかないと判断人の呪いを、解除できるはずがないよ」
「でも先ほど、あの女性の呪いを、他者から生気を奪う呪いだと看破しましたでしょう。ならば、解除の糸口ぐらいは掴めても不思議ではないのでは?」
「呪いについて見てみろっていうのなら、見てはみるけどさ」
満景は、隔離部屋の中の女性に顔を向けると、自分の目に猫目の印を施した。
この印の効果で、女性にまとわりつく呪いが視覚的にくっきりと見る事が出来るようになった。
彼女の呪いは、頭の後ろ半分を覆うように黒い塊がへばりつく形で存在していた。
黒い塊は、女性の頭の内側に根のようなものを侵入させている。そして、その塊から枝のようなものが多数周囲に伸びていて、減っていく呪力の補給先を求めるようにゆっくりと蠢いている。
そんな呪いの見た目から、満景は不可思議だと眉を寄せる。
「植物を基礎とした呪いっぽいけど、珍しい型だね」
「なにが珍しいわけ?」
小里からのツッコミに、満景は腕組みしながら返答する。
「植物を使った呪い自体は、別に珍しくはないんだよ。藁人形を使う丑の刻参り。草花から抽出した毒に呪いを込める。木と対象者を呪術で結んで、その木を枯らすことで体調不良にさせたり、とかね。だけど、呪術のプロが匙を投げるほどの強い呪いにするのなら、植物を使った呪術は普通は使わない」
「どしてよ?」
「植物自体には、感情がないからだよ。同じ作法でも、植物を動物に置き換えるだけで、動物が持つ感情をブースターにすることで、簡単に呪いを強くすることができる。だから、植物主体の呪いで、こうも強い呪いに仕立てているのは、呪をかけた人の腕が卓越しているって理由に至るわけだけど」
満景は、更に詳しく呪いを解析して、一つわかったことがあった。
「動物の感情をブースターにすると、強力な呪いをかけれられる。しかし感情は、時間の流れに従って薄れるもの。全国にある大怨霊を鎮める社だって、長い時間祀ることで、怨霊が持つ感情を薄れさせるものだしね。けど植物には感情がない。感情がないから、時間で呪いの効果を薄れることはないわけ。つまるところ、この女性の呪いは、呪術者が生きているかぎり、ずっとこのままの強さの呪いがかかり続けることになる」
満景は肩をすくめ、降参だと示すために両手を上げる。
「僕程度の実力じゃ、逆立ちしたって、解呪できないよ。植物系の呪いだから、火を使ったお祓いが有効かもしれないけど、頭の中に入っている根を一つでも焼き残したら、元の木阿弥になりそうな予感もあるしね」
満景が総評を告げると、磐根先生は自身のスマホでなにかを調べてから驚き顔になった。
「犬塚君が言ったように、この女性は火を使ったお祓いをしたようです。それで一時的に回復したものの、一ヶ月と経たずに呪いの状態が戻ってしまったみたいです。呪術者が再度呪いをかけたからだというのが最有力の予想でしたが、呪いが自然復活するという意見はありませんでした。予想の一つとして報告に入れておきますね」
磐根先生が報告を書き終えるのを待ってから、他の呪われた人の様子を見るために移動することになった。




