90話
ゴールデンウイーク明け最初の日の午後の実習は、学校の外にでての校外実習である。
満景は同じ班の生徒と共に、ある場所へと電車移動することになった。
ちなみに今回同行してくれる引率の教師は、鬼瓦先生ではなく、メガネ童顔低身長の新米女性教師――磐根先生である。
磐根先生は、移動する電車の中で、満景たちに向けて実習の目的を説明し始める。
「今回の校外実習では、皆さんは除霊したり、退魔をしたり、神様のご機嫌をとったりということはしません」
二十代前半の百五十センチメートルに届かない背丈の女性が、教師らしいスーツに包んだ体を精一杯に張って威厳を出そうとしている。
その姿は、磐根先生の童顔さもあって、まるで大人のコスプレをした中学生にしか見えない。
電車に乗り合わせた他の乗客からくる視線は、満景たちが何の集団なのかを理解しがたく思っているものばかり。
満景は周囲からの視線を的確に理解しつつも、それらをあえて無視して、磐根先生との受け答えに集中する。
「今日のホームルームで、鬼瓦先生が怖いことを言っていましたけど、今回の実習とは関係ないってことですか?」
満景が疑問を口にすると、磐根先生は人差し指を立ててから横に振って否定のポーズを示した。
「ところがどっこい。今回の校外実習は、怖いことを教える目的のものです。ただ、その怖さが、単純に霊能現象に相対するのとは気色が違うものなのですよ」
実習内容について、勿体ぶる口調だ。
内容を教えて欲しいと言っても、現地につくまで内緒と言われるのが落ちだという予感が、満景はしていた。
それならと、満景は次に出す疑問を別の物に差し替えることにした。
「東京都の中央部に向かっていますけど、目的地はそこですか?」
満景が乗っている電車の行先に目を向けながら言うと、磐根先生は『よくわかりましたね』と言わんばかりに大きく頷いた。
「政府関係の建物が多い地域にある、とある建物。そこが今回の実習の場所です」
「政府関係の建物、なのですか?」
そう新たな疑問を口にしたのは、満景ではなく、手水舎だった。
手水舎の態度は、政府所縁の建物に行くのに、どうして新米教師が引率なのかと疑っている様子だった。
そして磐根先生は、困り笑いのような表情になった。
「これから向かう場所では、お偉い役人に合うわけではありません。だから新人教師でも役目が務まるといいますか、霊能者であれば誰が案内しても問題ないといいますか」
「それならば、先生が引率する必要はないのではありませんか? それこそ、生徒だけで実習に向かわせれば、人材の節約になるはずです」
「ところが、生徒だけだと入れないんですよ。霊能者として活動している本職が案内しないと駄目なんです」
「先生は、学校の先生であって、霊能者の本職ではないのではありません?」
「霊能者を育てる学校の教師は、ちゃんとした霊能者扱いなんです」
磐根先生は、手水舎に侮られていることに対して、軽い怒り調子を見せる。だがその姿は、見た目の幼さもあって、不貞腐れて見せている中学生にしか見えない。
ともあれ、今回の校外実習の目的地である、東京都の政府機関が多く存在する地区へと電車で移動した。
最新の高層ビルの合間合間に、歴史を感じさせる建物がある区域に到着。
道々に警察官やら警備員やらが立っている様子を横目にしながら、とある建物に到着した。
その建物は、地上数十階はありそうな高層ビルで、全面に窓ガラスがはまっていてガラスの塔のようだった。
「みなさーん。さあ、中に入りましょう」
磐根先生に案内されながら、満景たちはそのガラスの塔のようなビルの中へ。
ビルの中も広く、エレベーターが六基もあり、そして警備員が数名エントランスに配置されている。
磐根先生は、警備員の一人に近寄って何かを喋りかける。すると、その警備員はエレベーターに案内するように、満景たちを先導した。
満景たちは、やってきたエレベーターの中に入る。
警備員も同じくエレベーターの中に入り、そしてポケットから鍵束を取り出すと、操作盤の鍵穴に差し込んだ。
すると操作盤の一部が開き、エレベーターが地下へ向かうためのボタンが現れた。
警備員が現れたボタンを押し込むと、エレベーターは地下へと向かって進み始めた。




