81話
ギヤマンの敗北の後も、天手力男神に挑戦する男の列は続いた。
実力が低い順から挑む形だったので、後になればなるほど、挑戦者の相撲の実力は上がっていく。
天手力男神の取り組みの仕方を見ても、それは明らかだ。
当初、天手力男神は挑戦者に自由に攻めさせて、その後で逆転する形で勝利していた。
しかし満景がいま見ている取り組みでは、立ち上がり直後から胸を合わせて回しを取りにいっている。
「回しを取り合う技量を確かめているってところかもね」
「差し手争いも、相撲観戦の醍醐味ですもの。これまでの挑戦者では、争う、ほどの手腕がないと見取ったのでしょうね」
手水舎からの補足説明が入っているうちに、天手力男神は差し手争いを制したようで、何時の間にか両手で挑戦者の回しを掴んでいる状態になっていた。逆に挑戦者は、天手力男神の回しから手をはがされてしまったようで、手が何も掴めずに空中をさまよっていた。
それからほどなくして、天手力男神が押し出す形で取り組みが決着した。
次の挑戦者は、差し手争いを頑張り、どうにか片手だけは天手力男神の回しを掴んだままを保たせた。
しかしそれ以上のことは出来ず、天手力男神によって土俵の上に転がされる結果になった。
「土俵の土が身体につくのは、この行事の中では良い事なんだっけ」
「犬塚のように、いまの方も周囲から羨ましがられているようです。当の本人も嬉しがっておりますね」
手水舎が指摘したように、負けたばかりだというのに、ほころばしい顔をしている。
それからも挑戦者の実力が順々にあがっていき、とうとう挑戦者の体型と頭髪に変化がでてきた。
でっぷりと太った体で、髪は伸ばし気味の挑戦者が土俵の上に。
「学生相撲の全国大会出場者か、相撲部屋の新人といったところでしょう」
手水舎の見立てを聞いて、とうとうその道のプロが出てきたのだと、満景は理解した。
丸々と太った挑戦者が土俵にいると、その体型の大きさから、土俵が一回り小さくなったように感じる。
体格というか体積では、明らかに天手力男神の方が負けている。
「はっけよい」
行事の掛け声とともに、太った挑戦者が前に突進する。その迫力は、急発進する自動車を思い起こすほど。普通の人ならぶつかっただけで、土俵の外へ弾き飛ばされてしまうだろう。
しかし天手力男神は、真正面から迎え撃つ形で、突進し返していた。
土俵中央で、両者が衝突する。
肉と骨がぶつかりあう、どごっ、と音が鳴った。
その衝突の結果は、なぜか体格が負けているはずの天手力男神が打ち勝ち、太った挑戦者が弾き飛ばされるように上体を浮つかせていた。
天手力男神は、無防備に晒された挑戦者の回しを両手でガッチリ掴むと、そのまま土俵の外へと押していく。
挑戦者は、持ち前の優れた体格によって押し出しを受ける経験が少ないのか、慌てた調子で体勢を低く保とうと腰を沈ませる。
それでも天手力男神は挑戦者を押し続け、あっという間に土俵の外へと追い出してしまった。
「あの方は体格が優れていようと、基礎が整っていませんでした。この結果は順当と言えるものでしょう」
「解説してくれて有難いけど、もしかして手水舎さんって相撲好きだったりする?」
「……この程度は、上流階級者としては嗜みのようなものでしてよ」
そういう物かと納得して、満景は次の挑戦者が上った土俵に目を向けなおした。




