79話
満景を含む五人全員が敗退し、土俵から力雄の実家へと戻ることになった。
入れ替わりで、新たな五人が土俵の横へ進んでいく。
満景が力雄の家に入ろうとすると、なぜか手伝いの女性たちに押し留められてしまった。
「あなたは、こっちにいらっしゃい」
そう言われて案内されたのは、家の中ではなく、家の庭。
その庭の一画には、半畳ほどの大きな和紙が敷かれていた。
半畳和紙の上に満景は立たされ、そして女性たちが毛の柔らかい箒を手に近寄ってきた。
女性たちは、まず満景の法被を優しく脱がせると、和紙の上で軽く叩いて付いていた土を落とした。続けて、持ってきた箒で満景の身体を撫でるように掃き、満景の身体に付いていた土を和紙に落としていく。
そうやって、満景の身体が箒で綺麗になると、今度は和紙を二つに畳んで乗った土を中央に寄せると、その土をお守り袋の中へ。
「敢闘賞のお守りだよ。無病息災のご利益があるから、これから一年は風邪知らずで過ごせるよ」
「あ、ありがとうございます」
満景がお守りを受け取ると、使用した半畳和紙はゴミとして廃棄され、新しい半畳和紙が同じ場所に再配置されていく。
満景はお守りを手に家の中に入ると、小里たち女性三人が寄ってきた。
「いい負けっぷりだったよ、おつー」
「敢闘賞を貰ったようで、頑張りを褒めて差し上げましょう」
「記念撮影しましょう」
三人に捕まって引き寄せられ、満景は法被と回し姿の状態で女性三人に囲まれる形で写真を撮られてしまう。
その後、三人が写真の出来栄えを見てきゃっきゃとはしゃぐ姿をしり目に、満景は法被と回しから着流し姿に戻っておいた。先ほどの天手力男神との取り組みの熱が身体に残っているため、着流し姿でも熱く感じ、少し襟元を緩めて風が入るようにする。
そうこうしている間に、満景の次の五人組の取り組みが終わったようだ。
そしてさらに次の五人の中に、ギヤマンが入っていた。
ギヤマンは、着流し姿に戻った満景に、睨みつけるような視線を向けてから、土俵横へと案内されて歩いていった。
「……どうして睨まれたんだろう?」
思わず満景が疑問を口にすると、その言葉が聞こえていたらしい手水舎が呆れ顔で近づいてきた。
「ここまでの参加者で唯一、犬塚が自身の身体に土を付けた――あの神に認められたからでしょうに」
「対戦した感触を言うと、あの神様は挑戦者の頑張りを受け止める気でいるっぽいから、挑戦者は自分の全力を出しきれば認めてもらえる気がするけど?」
「犬塚のように、神に遠慮なく全力を出せる輩は少ないものです。普通の人は、多少なりとも敬意や畏怖を感じて、力を出し切れなくなるものです」
そういうものかなと、満景は首を傾げてしまう。
そうやって二人で話している間にも、挑戦者が次々と天手力男神に撃破されていき、いよいよギヤマンの番になった。
ギヤマンは荒っぽい足取りで土俵に上がると、必要以上の塩を掴んで土俵に撒き散らした。
その豪快な振る舞いに、見物人たちから「おおッ!」と声援とも歓声とも取れない声が上がる。
しかし満景は、ギヤマンの振る舞いを見て、嫌な予感がした。
「なんか、普通に相撲を取る気がなさそうな感じがするんだけど」
その言葉に、小里と若槻が同意の言葉を返す。
「ギヤマンの顔を見てみて。あれ、神様に一泡吹かせてやろうって企んでいる顔だって」
「あまり罰当たりな真似をするとあとが怖いんですよね、日本神様は」
「始まりますわよ」
手水舎の注意の声を耳にして、満景たち三人は口を噤んで取り組みに集中する。
「はっけよい!」
行事の掛け声が起こり、土俵中央にいるギヤマンと天手力男神の取り組みが始まった。
未だに猫目の印が有効な満景の目には、ギヤマンが鋭く前に出る姿の他に、天手力男神が身体を起こして挑戦者を迎える体勢になる姿が視認できた。
その視界の中で、ギヤマンの腕の動きに注目した。
ギヤマンは、天手力男神の胸元や腰元に手を伸ばすのではなく、その右腕を振り被るように後ろに引いていた。
「まさか――」
と満景が予想の全てを口にする前に、ギヤマンの引いていた右腕が天手力男神の顔面へと向かい、そして殴りつけていた。




