76話
満景が大広間に戻ってくると、その姿は一変していた。
先ほどまではソコノ住職から与えられた着流し姿だったのだが、氏子の手によって力雄と同じ相撲まわしに法被の姿にさせられたのだ。
満景の肉体は、痩せても太ってもなく、筋肉量も年相応。
まわしと法被で隠れている部分があるものの、地肌の大部分が見えてしまう格好に、満景は気恥ずかしさを抑えきれない。
そんな恥ずかしがる満景をどう見たのか、小里がニンマリ顔で、若槻が興味津々な顔で、手水舎が平静な顔で、それぞれのスマホで撮影をし始めた。
「ほらほら、満景。笑ってわらってー」
「これも記念ですから」
「ほら、犬塚と多久頭。撮影してあげますから、横に並びなさいな」
手水舎に言われ、満景は力雄と横並びになる。
格好が同じなので、二人の肉体の差が如実に現れる。
満景の肉体は年相応ではあるものの、力雄の高身長かつ鍛え上げられた肉体の横に置かれると、やはり貧弱に見えてしまう。
(筋トレとかした方がいいかな……)
満景は、肉体改造の予定を立てようとして、そうじゃないと思い直した。
「はい、撮影は終わり! それで力雄。儀式ってなんのこと?」
「……教えてなかったか?」
力雄は失念していたとばかりに、その儀式について説明してくれた。
「この例祭では、しめくくりに祭神との相撲が行われる。それが儀式だ」
「神と相撲? それって独り相撲ってやつ?」
満景は、前にニュースで伝統行事として放映されていたものを思い出した。
しかし、それとは違うらしい。
「うちの儀式では、本当に神と相撲をとる。独り相撲のように、わざと人間側が一勝二敗で負ける必要もない」
「本当に神様と? えっでも、この神社の祭神って」
前に力雄が語っていたが、伊角神社が祀る神は天岩戸伝説にて、その岩戸を投げ飛ばした神――天手力男神だ。
その伝説を考えるに、腕力だけなら日本の神々の中で随一なのが間違いない神だ。
「……そんな相手と、僕が相撲をとるの?」
満景は、自分の腕と足を見て、敵うわけがないと判断する。
しかし、そんな満景の心配は杞憂だった。
「満景や、他の一般参加者は、儀式の賑やかしだ。本命は他にいる」
「よかったー。勝ち目があるとは思えなかったからさ」
満景は安堵してから、儀式を行う本命の人に考えを向ける。
「本命って、力雄ってこと?」
「その一人ではある。だが真の本命は他だ。満景も見ていたはずだ」
誰の事だろうと考えようとしたところで、この大広間に新たな人達が入ってきた。
その人達は、満景や力雄と同じ格好をしているので、どうやら儀式の参加者のようだ。
大広間の人口密度が増していき、そして最後の方に入ってきた人たちによって、より部屋の空間が圧迫されることになった。
丁髷を結った、恰幅の良い力士が五人。
その力士の中には、子供相撲の優勝者と取り組みをした、あの大関がいた。
「あの力士の人たち、とりわけ力昇岩関が本命ってわけだ」
「毎年、近場の相撲部屋に所属する、名うての力士たちが参加する。もちろん勝つことを目的にしてだ」
テレビを見ない満景は、現れた力士たちのことを良く知らない。だが、どうやら有名のようで、同室した人たちから握手やサインを強請られていた。
しばらく力士との交流が行われてから、白衣と烏帽子姿の神職の人が大広間に入ってきた。
「それでは真に勝手ながら、当職が天手力男神様に挑戦する順番を決めさせていただきます」
神職の人は、まず最年少の参加者を広間の出入口に呼び寄せて立たせ、そこから年若い者と体格が優れていない者を選んで順番に並ばせていく。
満景は、特に鍛えていない普通の体だからか、同年代に見える人たちの中で先の方に置かれてしまった。
一方で力雄は、参加力士の直前が順番になっていた。




