75話
力雄の家は二階建てで、ドラマで見た昭和家屋のように、洋間と和室が混在しているようだった。
そして一階の和室は大広間になっていて、氏子らしき人たちが大きな一枚板の足が低い和室用のテーブルの一画で酒やジュースを飲んでいる。
そんな大広間に、満景たちも案内されて、腰を落ち着けることになった。
「どへー。つっかれたー」
小里がへたり込むように畳みに座り、そして足を投げ出す格好になる。
そのだらしない恰好に、手水舎は咎める視線を送ってから、浴衣を着崩れさせない楚々とした動きで畳みに正座する。
満景は、手水舎の座り方を見て、自分も着流しでいることを思い出すと、正座で座ることにした。
ギヤマンは胡坐、若槻は横座りで着座した。
満景は、荷物持ちとして持っていた物の中から、飲食物をテーブルの上に置いた。
それら飲食物に、めいめいが手を付けながら、会話が始まる。
「いやー、遊んだわ~。つーか、祭りで霊能力使ってる人、けっこういたねー」
焼きそばを突きながらの、小里の言葉。
満景は、そうだったなと思い返す。
「大人だけじゃなく、子供もいたっけ。子供の方は、景品が当たり易くなるおまじないって感じだったけど。皆も、子供のころに、ああいったことをやってことがあったりする?」
そう話を向けると、ギヤマンが最初に答えを返してきた。
「ガキなんてもんは、霊能の特訓をヤレって言ったってやらねえかんな。ああいう遊びで力使わせて養う、ってのがウチの定石だ」
その意見に、小里と若槻が首を傾げる。
「管狐で遊ぶことは、うちの家でもやってたけどー、祭りのお店でズルをするために使ったりはしなかったしー」
「わたしがもっと小さかった頃は、テレビ番組に出演してましたから。霊能力を悪用するなんて発想すらありませんでした」
この二人の意見に、力雄と手水舎も同調する。
「祭りを主催する側だ。ズルは許容できない」
「そもズルをしてどうするのです。ああいう店では、店主の手法に騙されるのが遊戯の味では?」
「ケッ。良い子ちゃんばかりで、肩身が狭くていけねえ」
ギヤマンが拗ねたように顔を横向かせたところで、この部屋に同室している氏子らしき人たちが満景たちに近寄ってきた。
彼らの顔の向きを見るに、目当ては力雄のようだ。
「よう、坊っちゃん。そっちは、お友達かい?」
「あっちに神社に寄進されたジュースがたんまり余ってるから、飲みねえ飲みねえ」
「樽で酒もあるぞ――って、未成年じゃ飲めねえか!」
力雄は、その氏子の人たちの姿と満景たちの姿を交互に視線を送り、どうしたものかと困っている様子になる。
満景も初対面の人たちに詰め寄られて、どう反応すればと行動の選択に躊躇する。
そんな二人とは裏腹に、ギヤマン、小里、手水舎は手慣れた調子で、氏子の人たちに言葉を返していく。
「ありがとうな、おっちゃんら。小っちゃい、果物ジュースの缶ある? あれ美味くて好きなんだよ」
「お酒あるのー? 私じゃなくて、管狐に飲ませるから、貰っていいかなー?」
「おじさま方は、この祭りに詳しいのでしょうか。詳しいのでしたら、お話を聞かせていただきたく」
あっという間に向こうの懐の内に踏み込んだ、三人。
氏子の人たちは三人を歓迎して、ジュースの手配や逸話を話し始めた。
その様子を見て、力雄が満景に呟く。
「ああいうのも、才能だな」
「羨ましいよね。僕はどうしても、初対面の相手に身構えちゃうからさ」
「……意外だ。占いの手伝いをしているのなら、初対面の対応には慣れているんではないのか?」
「お客さん相手だと、相手と仲良くしようっていう気にならないから、逆に気楽なんだよ。失礼があっても、苦情を言われるだけで終わりだからさ」
けれど、これから関係を積み上げるべき相手だと、そうはいかない。
「初手で失敗して下手に恨みを買うと後が怖いってこと、僕はよく知っている。僕の実家に依頼しに来る人の多くは、取るに足りない内容を切っ掛けに人を呪おうとする人ばっかりだったし」
「だから初対面の相手には及び腰になると?」
「かく言う力雄も、あんまり得意じゃなさそうだけど?」
「……根本的に、人と喋るのが苦手だ」
「僕らとは話しているけど?」
「結構頑張って、どうにかこなしているだけだ」
そうなのかと納得していると、やおら満景の肩が誰かに掴まれた。
掴んでいる人が誰かと確認すると、氏子の一人だった。
その氏子は、満景の肩に手を置き続けながら、力雄に顔を向ける。
「坊ちゃん。このお友達も、儀式に参加させるってことで、良いんですよね?」
「えっ、儀式? なんのこと?」
困惑する満景だったが、力雄は何か考える素振りをしてから了承の頷きをした。
「頼んだ」
「よっしゃ。そうとなれば」
「なに、どういうこと!?」
満景はその氏子に抱え上げられると、大広間の外へと運ばれていった。




