73話
祭りの出店を巡っていると、ちょいちょい霊能力を悪さに使っている人物に出くわすことになった。
しかし、その彼ら彼女らに対して、ギヤマンが怒り出したりはしなかった。
満景が理由を尋ねると、ギヤマンは当たり前の口調で返してきた。
「最初に見つけたヤツと違って、弁えた遊び方をしてるからだな」
「弁えたって、霊能力でズルしているのに?」
「そのズルが、ほんのちょっとだけ得するぐらいに留めているのが重要ってこった」
例えば、回転する数字盤の出目で貰える薄煎餅の枚数が変わる、ジャムせんべい屋の場合。最大の大当たりは十枚だが、霊能力でズルをした人は、二等当たりの五枚に留めていた。
閉じられたくじを開いて、そこに書いてある番号で景品が変わる出店では。透視を行ったと思わしき客が、三等の景品を入手していた。
その他に出くわした霊能力を持つ客たちも、一等の大当たりを取るのではなく、そこそこの当たりで澄ませている様子だった。
ギヤマンに言わせると、その『そこそこの当たり』が重要らしい。
「全く当たりの出ない店だと客足が遠のく。だが、ちゃんと当たりを出した店には、客が寄ってくる。そこで店主は、少ない小遣いを握りしめてくる小さな子に小当たりを掴ませてやって、客寄せにするもんだ」
「けど、霊能者が普通に当たりをひいたから、普通に客寄せができるってわけだね」
「小当たりの景品が取られるのは、店にとちゃ客を呼ぶための必要経費だ。ズルで小当たりを引いた霊能者も、そこんところ弁えて、周囲の目を引くように大袈裟に喜んでただろ」
言われてみれば、確かにその通りの光景があった。
ズルい霊能者は良い景品を得られて喜び、出店の店主も小当たりを周囲に喧伝して客を呼べて喜ぶ。
双方共に良い目を得られるからこそ、ギヤマンはズルをする霊能者へ怒り出したりしなかったという図式らしい。
そんな話をしつつ、神社周りにある出店を一周し終えた。
満景は、荷物持ちとして引き受けて溜まっていたゴミをリサイクルステーションと名付けられていたゴミ集積所で廃棄して、友人たちが待つ神社の鳥居へ。
すると神社の中から、歓声が聞こえてきた。
声の様子からすると、応援する子供の声が多く、その子供の親と思われる声が少し聞こえる。
満景が声に対して首を傾げていると、小里が鳥居近くの柱に貼られていたチラシを指した。
「子供相撲をやってるみたい。子供同士で、トーナメントしてるっぽい」
どんな感じだろうと気になって、満景たちは神社の中へ。神社の神と若槻の守護神とは相性が悪くないようで、以前に龍が居付いたマンションで起こった、パチパチと空気が鳴る現象は起こっていない。
清水で手を洗い、社殿にお参りしてから、神社の一画に作られた土俵へ。四方に丸木の柱があり、その上に屋根がある。その屋根の下に、丸い土俵が作られてあり、子供たちがその土俵の周りに陣取って声援を上げている。その子供たちの背後に、保護者らしき大人たちが立ち並んでいる。
土俵の中央には、同じぐらいの体格の子供が二人と、白シャツ黒ズボン白手袋を装備した行事が一人。
子供二人は回しを組み合って力比べをしていて、行事がしきりに「はっけよい!」と声をかけている。
「いけー! なげろー!」
「おしきれー! おせー!」
子供たちの応援は、助言というよりかは、声を出すのが楽しくて手前勝手なことを言っている印象だ。
土俵中央で組み合っている二人も、互いに相手に対して集中しているようで、声援によって行動が変わる素振りはない。
二人は、投げようとして堪えられ、押し出そうとして踏ん張られを繰り返し、一進一退の様子を続ける。
行事はその攻防をたたえるかのように、「はっけよい!」の言葉が力強くなっている。
やがて子供二人のうちの片方が体力の限界を迎えたようで、唐突に腰砕けになったように土俵に座り込んだ。もう片方は、それに引きずられる形で、土俵の上に倒れ込んだ。
「東の勝ち~!」
行事が勝者を宣言すると、子供二人は握手し合いながら立ち上がり、敗者が先に土俵を去り、勝者は一礼してから土俵から下りた。
すぐに次の組が土俵に上がり、行事の「はっけよい」の言葉と共に組み合う。
そうした試合を次々と観戦していき、とうとう決勝戦。
その段階になって、満景は神社の社殿の方向に圧を感じた。
感じた方へ目を向けると、髷を結って浴衣を着た大柄の大男――力士がいた。
満景が見ている方向を、ギヤマンが見て声を上げた。
「すげえ。力昇岩関だ。そういや、あの人が所属する部屋は、ここから近い場所だっけか」
「りきしょうがん? 誰?」
「日本人だろ。知らねえのかよ。次の場所で優勝すれば横綱になれるかもっていう、日本人大関の人だ」
満景はテレビを見たりしないので、有名力士らしい力昇岩のことを知らなかった。
しかし、神社で相撲をとる子供たちは知っているようで、高い歓声が上がった。
その後の状況を見ていると、どうやら子供相撲大会の優勝者には、力昇岩と相撲をとる権利が貰えるようだ。
本人登場を目の当たりにして、決勝に進んだ二人も俄然にやる気になったようで、今まで以上の気迫でもって戦う相手を睨み合っている。
「はっけよい!」
行事の掛け声とともに、子供二人が回しを取り合った。
白熱した激戦の後、上手く投げ技を決めた方が勝利し、優勝者となった。
その優勝者と力昇岩の取り組みはすぐに始まり、子供はどうにか投げようと手を変え品を変えるが、力昇岩は地面に生えた巨木のように小揺るぎもしない。
そして子供に十分に攻めさせた後、力昇岩は片手で子供の後ろ回しを掴んで持ち上げ、そのまま土俵の外へと運んで優しく下した。
これぞ『子供扱い』の見本のような決着の仕方に、負けた子供も土俵周りで観戦していた子供たちも嬉しそうな顔になる。憧れの力士の想像以上の力強さに感激しているようだった。




