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72話

 満景が目を向けた、祭りの客。

 Tシャツ短パン姿をした、二十歳超えの大人の男性。

 その男性が居る出店はヒモ釣り――多数のヒモの先にそれぞれ物品が括りつけられていて、それらのヒモが一まとめになった筒の中から、客が一本のヒモを掴んで引き、釣りあげたものを得られるという遊戯だ。

 得られる景品には、最新ゲーム機や電動BBガンや流行りのアニメの玩具などがあるが、大抵はお菓子や小さなぬいぐるみしか引き当てることができない。

 そんなヒモ釣りの出店にいる客は、すでに遊戯代金を支払った後なのだろう、どのヒモを引っ張るかをじっくり選んでいるところだった。

 満景がそんな光景を見ていると、隣にいた手水舎に肩を突かれた。


「どうなさったの?」

「いや、あの客から嫌な臭いを感じたから、見ていただけだよ」


 手水舎は、満景が示した方向へ顔を向けると、興味を失った様子になる。

 そんな手水舎と入れ替わる形で、今度は小里とギヤマンが興味を抱いた様子になる。


「満景が見つけた客って、あの人っしょ。あーあー、あれはやっちゃってんねー」

「ああ、そうだな。チッ。祭りの遊びに霊能を使うなってんだよな」


 二人の言葉に、満景は首を傾げる。


「二人は、あの客がなにをしているか、分かっていたりする?」

「もち。あの人が使っている霊能は、うちの管狐と似たようなもんだし」

閻魔寺ウチが取り仕切る祭りのシマじゃ、あんな真似はさせないよう、ウチ所属の霊能者が目を光らせてっし」

「えーっと、具体的にどんなことをしているかを教えてもらっても?」

「簡単にいえば、あの店の良い商品を結んだヒモあるっしょ。そのヒモに、霊だの式神だのを憑依させるわけ。そんで後は、霊的な感能力でもって、霊的なもんが憑いたヒモを探れば、大当たりを引けるって寸法なわけ」

「上手いやつになると、憑依させたヒモを筒の手前に来るように誘導するんだよ。これを許すと、祭りの出店が荒らされまくることになっから、警戒しなきゃいけねえんだ」


 説明に満景が納得していると、件の出店で動きがあった。

 どうやら客が、最新ゲーム機を吊ったヒモを探り当てて引き上げたようで、出店の店主の顔が引きつっていた。

 その光景を見て、ギヤマンが舌打ちする。


「チッ。この祭りを取り仕切ってるヤツは何してんだ。まんまとやられてるじゃねえかよ」


 ギヤマンが舌打ちを更に重ねると、顔を若槻へと向ける。


「おい、神憑き。ちょっとあの客に、神気をぶつけてやれよ」

「……なんでよ」


 若槻の態度は嫌そうだ。

 その態度の理由は、ギヤマンの頼みを聞くのがいやなのか、それとも守護神を頼ることを忌避しているからか。

 そんな若槻の様子を斟酌せずに、ギヤマンは更なる言葉を放つ。


「祭りを荒らす脳しかねえような三下霊能者が従えるモンなら、テメエの神の神気を浴びせりゃ散らせるからだ。これ以上、バカな真似はさせねえ方がいいだろうよ」

「人助けってことなら、まあ」


 若槻は、ギヤマンの願いを叶える前に、自分の目を塞ぐように手をかざし、その手をすぐに目から退けた。

 満景が思うに、若槻が行った作法は、満景が自分に猫目の印をかけるようなもの――霊的な存在をくっきりと視認するためのものだろう。

 その証拠に、若槻は人差し指を件の客へと向けつつ、その指先の位置を小刻みに調整している。あたかも、狙うべきものだけを狙い定めているかのように。


「軽くでいいですから」


 若槻の、自身の守護神に向けての言葉。

 直後に満景は、自分の背中に冷たいものを感じた。

 その感覚は、不意に高所から下にある地面を直視したような、もしくは高速移動する自動車が自身の直近を通り過ぎたときのような、自分に被害は受けないとわかっていても身の危険を感じたときに近いもの。

 これは、そんな危機を感じてしまうほど、若槻の神気の威力は高いことの証明であった。

 そして件の客は、若槻から放たれたその神気を食らったようだった。

 客の服の内側から、割り箸を何本か連続で折ったような、パキパキという音が連続した。すると客は青い顔になり、自身の短パンのポケットを漁り、そこから手を引き抜いた。

 客の手の中にあったのは、木製のなにか。元の形がなにか分からないぐらいに粉々に砕けていて、その手からぽろぽろと破片が零れ落ちている。

 客は青い顔のまま、急いでその場を後にしていった。

 その行動の理由を、満景は予想することができた。


「自分が得になるように仕立てた呪術なら、それが壊れると得した以上の不運が帰ってくるからね。その不運が本格的にやってくる前に、不運の受け皿になるような呪具を取りにいったってところかな」


 その予想に、ギヤマンは頷きを一つしてから片頬を吊り上げる笑みを浮かべる。


「あんな三下野郎が得られるぐらいの呪具で、どうにかなるとは思えねえけどな。なにせヤツは、若槻の神さんの力を食らったんだ。その神気を抑え込むのは、並大抵の呪具じゃ無理だしな」

「そうと分かっていて、若槻さんに頼んだんだ?」

「へっ。しっぺ返しを貰うのがいやなら、霊を使った悪さなんかしなきゃいい」


 ギヤマンは、悪い人物が悪い結果に陥ったことに満足した様子で、次の出店へ遊びへ向かう。

 ギヤマン以外の面々は、そこまで割り切る気持ちは持てないものの、仕切り直して祭りを楽しむことに集中することにした。


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― 新着の感想 ―
悪霊とか悪魔とか呪いとか実際に居る怖い世界だけど、祭りの出店で当たりが有るって良い世界だなぁ。
神様のお膝元のお祭りで渋い位ならともかくアタリ無しとかしたら、 神罰待ったなし何じゃないのかな。 だからこの世界のテキ屋は信心深いんじゃないかな、アレな商売やったら自分のお祭りにケチ付けられたと神様が…
現実では出店側がアタリを入れずにトラブルになるんだけどね…
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