68話
満景は、友人たちによる職場訪問を受けた後も、ゴールデンウイーク中は占いの館での仕事をこなしていった。
そして五月五日の子供の日になった。
あらかじめ占いの館の仕事を休むことは伝えてあったので、職場での混乱は起きない。
むしろ占いの館の経営者であるソコノ住職から、学生なのだから大いに遊べと応援された。
「応援ついでに、祭りならこの格好だろうって、和服までくれたけど」
いま満景が広げてみているのは、ソコノ住職から渡された着流し一式。
寺の一室にある衣装棚に仕舞われていたという着流しは、グレー色の手触りの良い生地で出来ていて、付属の帯も色の濃い確りとしたもの。手荷物を入れる巾着袋も、着流しの色に合わせた作りをしていた。
そんな服と帯と巾着は他の人に使われた形跡があるものの、他に付いていた半襦袢と雪駄と足袋は明らかに新品だった。
満景は、ソコノ住職に感謝の念を送ってから、スマホで着付け方を調べつつ着てみることにした。
二度ほど着方を間違え、三度目でどうにか形になった。
「各部をちょいちょいと調整して、出来た」
満景はグレー色の着流しに包まれた自分の姿に、満足感を覚えた。
「着崩れを直す方法も把握して準備万端、出発しよう」
巾着袋の中にスマホと財布とアパートの鍵を入れてから、雪駄を履いて外へ。
通常の靴とは違う、雪駄特有のさりさりと鳴る足音に、満景は面白さを感じた。
(こういうのも、祭りの日らしい特別さってものかな)
満景はそんなことを考えながら、最寄り駅から力雄の実家の神社がある駅まで移動していく。
電車が目的の神社に近づくにつれて、ちらほらと祭り目的らしき乗客が電車に乗り込んでくる。
目的駅で満景が電車から下りると、満景が先ほど見当を付けていた乗客たちも下りていた。
その乗客たちは、神社の場所を既に知っている歩き方で、駅の外へと出ていく。
それならと、満景はその人たちの流れに乗って移動することにした。
移動することしばらくして、力雄の実家である伊角神社の場所を伝える案内看板が目に入った。
そして案内看板から少し先の道から、ずらっと出店が並んでいた。
満景は、人の流れから逸れて、案内看板の前に立った。
(神社がある場所まで、まだ二百メートルはありそうなのに)
満景の犬塚の実家がある場所の近くにある神社も、祭りはやっていたし、その日には出店も立っていた。
しかしそれは非常にこじんまりとしたもので、出店も神社境内とその周辺道路に限られていた。
伊角神社の祭りのように、道路を何百メートルも使って出店が並ぶなんて、満景の想像の外だった。
満景は、人の流れに戻ると、出店が並ぶ道を進んでいく。
祭りを楽しむ人達は、出店の料理に舌鼓を打ったり、景品付きの遊びに興じているが、その表情に驚きはない。つまり、この出店が立ち並ぶ光景は、伊角神社の祭りに参加したことのある人なら見慣れているということ。
(神社に祀られている神様にしても、これだけ大仰に例大祭を行われれば、嫌な気はしないだろうしね)
満景はそんなことを考えながら、出店にどんなものが出ているかを見ながら道を進んでいく。
りんご飴。ベビーかすてら。かき氷。型抜き。金魚すくい。射的。そんな定番のもの。
ケバブ。フランクフルト。シャーピン。水槽コイン落とし。アニメキャラの人形すくい。ハンマーで殴った勢いで重りを飛ばして鐘を鳴らすやつ。今の時代に合わせて出てきたもの。
そういった出店に、満景は気をひかれながらも、友人たちとの集合場所である、伊角神社の鳥居の前へと進んでいく。
すると、石造りの鳥居が見えてきた。
既に何人かは到着していたようで、その内の一人が満景を見つけて大手を振って呼んでいた。




