67話
昼になり、占いの館にやってくる客の頻度が増えてきた。
ゴールデンウイーク初日という休日だけあり、一人だけで占いに来るのではなく、友達連れで来る客が多くなってきたからだ。
同じ友達連れの客でも、その友達と一緒に占いたい人と、友達と分かれて占ってもらってから合流して結果を教え合う人に分かれる。
リピーターの客は前、初見の客は後ろのパターンが多い。
リピーターで友達連れの客の会話を盗み聞きするに、良い占い結果を出した占い師に友達も占って欲しいからというのが、理由のようだった。
満景が来る客を目的に見合った占い師に振り分け続けて、受付の待機列を消化していると、見知った顔が待機列の最後方に入ったのが目に入った。
(三人そろって、なにをしにきたのやら)
満景は疑問に思いつつも、次々に客を占い師へと振り分けていく。
そうして、とうとう満景の顔見知りを案内する番になった。
「いらっしゃいませ。本日は、どのような目的で、占いの館に?」
満景がビジネススマイルをしながら言うと、顔見知りの一人――小里が笑いを堪えなかった様子になる。
「ぶはっ。満景が真面目に仕事してて、ウケる!」
「……いや、仕事は真面目にやるもんだろ」
「それもそっか!」
笑うのを咎めるように、若槻が小里の私服を軽く引っ張る。
「友達だからって、仕事の邪魔しちゃダメだよ」
「止めてくれてありがとう、若槻さん。それで手水舎さんは、どうして僕の服をまじまじと見ているの?」
「いえ。狩衣姿を初めて見たなと。それと似合っておいでなので」
「えっと。ありがとう?」
満景は返答に困りつつ、仕事の役割を全うすることに集中する。
「それで三人は、何を占いに?」
「モチ、恋愛運! ここ、よく当たるって評判っぽいし!」
そう小里が素早く返した後で、手水舎、若槻の順番で答える。
「今後の人生の指針を得ようと思いまして」
「わたしは二人の付き添いかな。このビルに近づくと、離れろって引っ張られちゃうから」
若槻の守護神が離そうとする理由に、満景は思い至る。
「この館の占い師は、誰もがやり手の祓い師だからね。警戒しているんだろうね」
「そういえば、犬塚くんの師匠なんですよね」
「そうだよ。占いと祓い師の基本を教えてもらったんだ」
満景は雑談しつつ、三人に相応しい占い師を選び終わって紹介しようとして、小里から待ったがかかった。
「満景の師匠がいるってことは、悪魔召喚を教えた人もいるってこと? ならその人に占って欲しいなー」
「別に構わないけど、デビル大杉殿下は恋愛運を占うのに適した人じゃないよ?」
「いいからいいから」
それならと、小里にはデビル大杉殿下を、手水舎には旧家とは違う価値観からの視点から占うためにシスターエリスを紹介した。
二人がビルの中に入っていったのを見送ってから、満景は若槻に向き直る。
「若槻さんはビルの中に入れなさそうだから。僕が占うのでどう?」
「犬塚くんが、ですか?」
「一人だけ占われてないのも気まずいでしょ。サービスだよ」
満景は、傍らに置いてあった黒塗りの箱から大アルカナのタロットカード束を取り出す。
札を切って混ぜて整えてから、受付の机の上に滑らせ並べる。
「どうぞ、一枚選んで」
若槻は、言われるがまま札を取ろうとして、その手が札に触れる直前に急に横滑りして、ある札を掴んだ。
「あの、これを取れって」
そう守護神に言われたらしい。
満景は、それじゃ若槻のための占いにならないなと思いつつも、札をひっくり返させた。
現れたのは、ザ・ワールドの正位置のカード。
完全や完璧を示すカードだが、それを若槻の守護神が選ばせたと考えると意味が変わってくる。
「俺が絶対に幸せにしてやる、って意思表示だね」
「あははっ――重いって」
若槻が守護神へクレームをつけたのを見届けてから、改めてタロットカード占いを行った。
今度はしっかり若槻自身が選んだカード。
現れた絵柄は、戦車の正位置。
「若槻さんがいま立てている目標のままに突っ切れば吉、っていう暗示だよ」
「目標のままに。分かりました。ありがとうございました」
占い結果を受けて、若槻の表情に自信が現れた。
どうやら若槻の悩みの一つを晴らすことが出来たようだと、満景は胸を撫でおろした。




