66話
五月五日に、クラスメイトと祭りに行く。
その予定をソコノ住職に伝えると、大喜びされた。
「そいつは良い。学生の内は、遊ぶのも学びの一つ。大いに楽しむといい」
「占いの館の受付業務を休むことになっちゃうけど」
「何を水臭い。うちの占い師連中でも、ゴールデンウイークに出ずっぱりは少ない。満景が期間中に一日の休みをとって、何の害が出るというのか」
それにと、ソコノ住職は続ける。
「子供の日では、神社や寺でイベントを行うことが多い。鯉幟の展示、菖蒲売り、例祭などのな。それらの影響で、ゴールデンウイーク中に一番客入りが少ない日だ。満景が休んだところで、さした影響はないだろうよ」
満景は過去を思い出して、そうだったかなと首を傾げる。
(きっと、僕が気に病まないよう、ソコノ住職が気遣ってくれたんだな)
そう思って、言葉を受け入れることにした。
そうして五月五日に休むことが決まったとはいえ、それ以外の日は占いの館で受付業務を行うことは変わらない。
ゴールデンウイークが始まり、満景が占いの館の出入口で受付の準備を行っていると、すぐに開店を待機する客が現れた。
満景は準備を続けながら、その客に目を向ける。
客は男性で、三十代の見た目。安値を売りにする量販店の服を着ていて、荷物やバッグは所持していない。頭髪に小さな寝ぐせがあるあたり、急いで来たことが窺える。
顔色は暗く、開店を急かすかのように足をしきりに貧乏ゆすりしている。
そうした見た目から、占いを楽しむために来たというよりも、占いに縋りにきたのだろうと、満景は予想した。
(連休初日に、占うために開店前に押しかけてくるなんて。よっぽど悩みが大きいんだろうな)
満景は受付の準備を済ませると、スマホの時計を確認して、開店時間をキッチリ計る。
そして開店時間が来た瞬間に、開店を待っていた男性に声をかける。
「準備が整いました。どうぞこちらへ」
満景が呼び寄せると、男性客は苛立った様子で用件を口にする。
「占いたいのは仕事運だ。できれば、仕事についての判断のアドバイスも欲しい」
「仕事のアドバイスですか。失礼ですが、ご職業をお尋ねしても?」
「詳しくは言えないが、貿易関係だ」
受け答えをしながら、満景は自身の嗅覚に意識を集中させる。
男性客からは、霊障由来の嫌な臭いはしてこない。
どうやら単純に、仕事についての悩みを占いで解決したい様子だ。
それならと、満景は今日占いの館にいる占い師の中で、この男性客に合った人物を紹介することにした。
「当館の、ソコノ住職が悩みを打ち上げる相手に相応しいでしょう。占いの腕はもとより、思慮と機知に富んだ占い師ですので、貴方の悩みについて的確なアドバイスを行えるはずです」
満景がソコノ住職がいる館の部屋番号を伝えると、男性客は大急ぎで館の中へと移動してエレベーターに入っていった。
それからしばらくして、館の中から心配事が晴れた顔つきで、先ほどの男性客が出てきて、そのまま駅の方へと去っていった。
その男性客と入れ違う形で、別の客がやってきた。
今度は女性客で、二十代後半の見た目で、スーツ姿。しかし、その身体からは強いアルコール臭がしている。
(連休前だから、ハメを外して大酒飲んだのかな?)
そんな予想を立てつつ、満景はビジネススマイルを浮かべる。
「占いの館にようこそ。本日は、なにを占いに来ましたか?」
満景の問いかけに、女性客は酔いが残った目を向けてくる。
「あのね、昨日、恋人立った人に振られたの。もう、許せなくって!」
「……はい。それで、恋愛運を占いに?」
「ちっがーう! その恋人に、もう付き合っている人がいるかどうかを知りたいの! 居たらとっちめてやるんだから!」
酔いと恨みが篭った声にも、満景は狼狽えずに相応しい占い師を紹介する。
「そういう話であれば、当館の御土路汚泥椎茸がいいでしょう。同じ女性なのでで悩みを打ち明けやすいですし、その占い師は無類の酒好きなので話も合うかと」
「じゃあ、その人で!」
酔っていて歩行が危険そうなので、満景は女性客と共にエレベーターに乗って、件の占い師の部屋まで案内してから、受付に戻った。
しばらくして、女性客が外に出てきた。
その表情には憤怒が浮かんでいて、片手にメモ用紙が一枚握られている。
女性客は怒り顔のまま、自身のスマホを取り出して、どこかに通話をかける。
「出た! 別れたのに何の用だって、文句を言うためよ! あんた、二股かけてたでしょ、知ってるんだから! 私の勘違いだって? じゃあ言ってあげるわよ、あんたの別の彼女について!」
女性客はスマホへ怒声を浴びせつつ駅へ向かって歩き出す。手にある紙に書かれた文字を、そのまま相手に叩きつけるような口調で放つ。
「年齢は二十歳になったばかり! 茶髪のボブでウエーブかかってて、可愛い顔立ち! 身長は私より少し低くて、おっぱいがデカくてボーンって突き出てる! お水の商売をしていて、あんたはその客だった! どう、合ってるでしょ! それで教えるけど、その子も三股かけて別の男がいるから! 二股していたあんたとお似合いね!」
赤裸々な恋愛事情を往来で叫びながら、女性客は去っていった。




