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61話

 満景たちが、うんうん唸りながら考えを巡らせる。

 その様子を、鬼瓦先生は見ながらニヤニヤと笑っている。

 そう鬼瓦先生が笑っているのに、小里が気付いた。


「ちょっとー、先生。生徒が苦しんでいるのに笑うのって、不謹慎でしょー」

「おっと、悪い。今日の校外実習の目的に沿った行動をしてくれているから、嬉しく感じたんだ」

「実習の目的?」


 小里が首を傾げると、鬼瓦先生は自身の腕時計で時間を確認する。


「実習終了の時間まで、まだ猶予があるが。どうだ。龍を追い出す手段を思いつけたか?」


 その質問に言い返すのは、手水舎だった。


「嫌味ですね。こちらが案出しすら出来ていないのを、傍で見ていたはずですが」

「そう悪く捉えないでくれ。いまのは、講義する前の話題振りのようなもんだ」


 鬼瓦先生は落ち着けと身振りしてから、実習の目的について語り始める。


「今回の目的は、実力に見合わない相手に出くわした際に、どう対処するかを考える機会を作ることだ」


 生徒一同が今一ピンと来ていない顔をすると、鬼瓦先生は更に詳しく説明していく。


「お前らぐらいの実力があれば、世にある悪霊はの大半は力技でどうにかできてしまう。しかしごく一部は、そんな力技じゃどうにもならなかったりもする」

「前の実習の巨大な悪霊や、マンションの部屋にいる龍のようにですか?」


 満景の質問に、鬼瓦先生は頷きを返した。


「依頼を受けて出張って、そういう相手に当たった場合にどうするか。この実習は、それを考える練習なわけだ」

「もしかして、僕らの班に龍を宛がったのって」

「犬塚が悪魔召喚なんぞという反則技を持っているからな。その手札でも完全に通用しない相手となると、龍ぐらいしかない」


 そういえば悪魔召喚という技があったと生徒たちが気付き、そして鬼瓦先生が龍に通用しないと言っていることに驚く。

 そして小里が、興味本位という態度で、詳しく聞こうと手を上げた。


「先生ー。どうして悪魔が龍に勝てないって思ってるわけ? 最低級の悪魔じゃ力が足りないとしたって、それより上の悪魔なら通用するんじゃない?」

「召喚できるとするとして、中級ないしは上級悪魔なら、龍を相手どれるだろうな。だが、そんな悪魔と龍の戦いに、このマンションが耐えられると思うか? その戦いでマンションが倒壊するハメになったとして、俺たちは逃げ切ることができるか?」

「あー。自滅するから使えない札ってわけね」


 小里が納得したところで、次に手水舎が手を上げる。


「つまり先生は、わたくしたちが対応不可能だと知りながら、龍を追い出す方法を考えろと告げたわけなのですね」

「もしかしたら対応策が出てくるかも、とは期待していたぞ。そして、さっきの話し合いの中に、良い感じの案は出ていた」


 話し合いで出ていた案というと、龍の居心地を良くするか悪くするかだ。

 そのどちらが、鬼瓦先生がいう良い案なのだろうか。

 満景が判断を下す前に、鬼瓦先生が話を先に進めてしまう。


「さてだ。自分たちの実力以上の相手に関わるハメになった場合、まずは仲間で話し合いをする。もしかしたら、仲間の中に良い手札があるかもしれない。その手札の持ち主に自覚なくな。話し合いは、その手札を見つける良い方法だ。しかし今回の場合、誰も有効な手札を持っていない場合もある。

 その場合、取れる手段は一つきりだ。現状を封印して、有効な手札を持つ人物を呼ぶ。この手を取ると、依頼だった場合は依頼料の全てと救援代を自腹で上乗せして、呼んだ人物に払う必要がでてくるが、必要経費だったと赤字になることを受け入れろ」


 事態の尻拭いしてもらうのだから、解決してくれた人に謝礼金を払うのは当たり前。

 しかし、自分の実力の無さを飲み込んで、高い金銭を払って救援を依頼することが、本当にできるのだろうか。


(大体の人は、そんな真似できないんじゃないかな)


 満景は、中学生の頃から占いの館でお手伝いとして働いていた。

 そして占いに頼る人物の中に、本人が起こした失態を先延ばしにしたことで二進も三進もいかなくなった人がいた。それも中学三年間で、一人二人という割合ではなく、十人二十人という割合でだ。

 自分の実力の無さを認めることができず、正直に失態を上司に話して怒られることもできず、事態が大きくなるまで見て見ぬふりをするしかできないほど、精神が弱い人間は多い。

 満景は占いと通して、そうした人間の性質をしっているため、鬼瓦先生が言った対応を取れる霊能者がどれだけいるのかと疑問を持つ。

 そんな満景の疑問を見透かしたように、鬼瓦先生が忠告を口にする。


「念のために言っておくが、霊能関係の仕事で、解決できていないのに解決できたとか、封印しただけなのに祓ったとか、そういう誤魔化しは止めておけよ。でないと、大変なことになるからな」

「どのみち、後でバレて大目玉ってことでしょー?」


 小里の揶揄い気味の言葉に、鬼瓦先生は首を横に振る。


「そうじゃない。誤魔化し案件が発覚し、その解決に乗り出したやり手の霊能者の中には、こう考える奴がいるんだ。前にこの案件を解決したと言ったヤツがいるのなら、本当に解決したことにしてやろうってな」

「手柄を上げちゃうってことー?」

「ある意味ではそうだ。案件解決に必要になった全ての要素を押し付けることで、共同解決者に仕立て上げるからな。例えば、悪魔召喚で事態解決を図る場合、悪魔を召喚するために必要なコストを、その前任者に無理矢理押し付けることをやる」


 小里は、鬼瓦先生から満景へと視線を移す。


「ねえ、満景。その場合のコストって、どんなもんなん?」

「最下級の悪魔なら宝物一つ。下級の悪魔なら手足の一、二本。中級から上級の悪魔を召喚するなら、生贄の魂ってところが相場らしいよ。あと、召喚した悪魔にとってやる気のでる案件なら値引きがきくけど、逆にやる気のでない案件だと報酬上乗せが必須らしい」

「コストを押し付ける先がいる場合は、どんな感じにすんの?」

「僕はコストを押し付ける方法を知らないけど、もし僕が鬼瓦先生が語るような人物なら、コストで失われる前任者の何かを考えずに、事態解決が絶対にできるだけの実力を持つ悪魔を呼ぶだろうね」


 満景が自明の理を語ったところ、質問してきた小里がドン引きしていた。


「最悪、その前任者って人が死んでも良いって事っしょ。えっぐいわー」

「えー。そうかな?」


 満景が意外な反応だと首を傾げていると、鬼瓦先生から言葉の援護がやってきた。


「尻拭い案件で、魂を取るまではやりすぎだとしても、前任者の人生が終わるほどの借金を負わせたりする事例はザラにあるぞ。霊能関係で被害を隠匿することは許さないという罰の意味を込めてな」

「借金を負わせるってことっしょ?」


 小里が拍子抜けしたような顔をすると、鬼瓦先生は脅すように言う。


「生半可な借金じゃないぞ。例えば、霊能者の名家には門外不出の呪具があってな。それの使用料は、青天井の時価。それこそ、日本の国家予算並みの使用料を請求することだって可能だ。もちろん普通の依頼では、その呪具を使っても、法外に高額な使用料を取ったりしないがな」

「けど、事態を隠して悪化した人には、法外な請求するってわけね。怖っ」

「話が逸れたが、つまるところ今日の実習は、生徒には解決不能な事態に引き合わせ、解決不能を前にどう判断するかを見て、もし隠匿方向に進みそうなら是正するのが目的だったわけだ」 


 鬼瓦先生の要約に、生徒一同はそうだったのかと納得した。



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― 新着の感想 ―
さて、そんな先生の今回の解決策はどんなだろねえ
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