60話
悪霊を使う方法がダメだとすると、どうやって龍の住み心地を悪くすればいいのだろうか。
満景がその考えに囚われていると、手水舎が疑問を提示してきた。
「そもそもですけれども、どうして、あの龍はマンションで寝ているのでしょう。そこを知らずに、事態解決は難しいのではなくて?」
言われてみて、龍が住みついた理由を知らないことに、満景は遅ればせながら気付かされた。
手水舎は言葉を続ける。
「龍が休んでいる目的さえわかれば、その目的を解決することで、龍は自然とマンションから出ていくのでは?」
手水舎の提案に、全員が納得の頷きをする。
「寝ているってことは、やっぱ休憩しているんでは?」
小里の予想に、力雄は首を傾げる。
「龍は力の象徴。休むのは不似合いだ」
「言い伝えでも、龍は常に動き回っているもの。その動きを押さえてもらうために、生贄や貢物をしたといわれておりますものね」
手水舎の補足にも、小里は納得がいかないという顔だ。
「でもさ、実際に龍は部屋の中で寝てんじゃん。休憩じゃないなら、どうして龍が寝てんのか、二人は考察できんの?」
「むぅ」
「明確な答えを出すことは難しいですね」
そんな三人の会話を聞いていて、満景はある疑問を抱き、その疑問を口に出す。
「龍が休んだりしないのは、龍が健康な状態ならって話でしょ。何かしらの病気を患っていれば、龍だって休んだりするんじゃない?」
「あり得はする」
「しかし、龍が病を得るというのも、納得がいかない話です」
「なら怪我をしていて、その怪我が治るまで休んでいるとかは?」
「あり得る」
「ですが見るに、怪我をしている様子は一切ありませんね」
手水舎が言うように、龍の身体に傷は見当たらない。それどころか、スヤスヤと呑気に寝入っている寝顔は、怪我の痛みとは無縁そうな表情だ。
満景が自分の予想は外れたようだと気落ちしていると、小里が直管が働いたという顔になる。
「もしかしてだけどさ、あの龍って赤ちゃんってことない? 赤ちゃんは、寝るのが仕事って聞いたことあるし」
まさかそんなと、小里以外の全員の表情が一致する。
マンション住民に障害が発生するほど、龍は強い龍気を放っている。
そんな龍が、赤ん坊のはずがない。
満景たちがそう考えたところで、またもや鬼瓦先生からの言葉がやってきた。
「言ってなかったか。あの龍は、流石に赤ん坊ではないが、幼龍だ。そも成龍なら、マンションの一室になんて収まらん。スマホで中国の建物にある龍穴を調べてみろ。その大きさが、成龍の大きさだ」
言われて調べてみると、デカい高層ビルの真ん中に、縦五階分かつ横五部屋分の大きな穴が開いていた。
この穴でないと成龍が通れないとすると、目の前のマンションの部屋に寝ている龍は成龍でないことは確定だろう。
「つまり幼い龍だから、マンションの部屋の中に入って休んでいるわけですか?」
「良い感じの大きな止まり木があったから、その洞に入って休んでいる。あの龍からすると、そんな感じだろうな」
鬼瓦先生の予想に、生徒一同が先に言えと表情で訴える。
「ともあれ、龍は幼いから、体力回復のために休んでいる。それが分かった」
しかし分かったことが、逆に問題になる。
龍の目的が体力回復のための休憩なら、龍が自然と去るのは体力が回復しきった後になる。
「幼龍の体力回復って、どれだけの時間がかかるか、知っている人いる?」
満景の質問に、全員が首を横に振る。
「じゃあ、幼龍の体力回復を増進させるものに、心当たりがある人は?」
またもや全員が首を横に振り、そして手水舎が言葉を口にする。
「貢物についての言い伝えはありますけれど、それが龍の好物であったり、体力を回復させるものであるという話はありません」
情報という観点から、小里も告げる。
「龍といえば、酒、団子、果物、そして宝石や人の舞が好きって言われてっけどさ、確証は一切なしー。もしかすっと、人間が提示できる貢物の中ではマシってだけかもねー」
その後も話し合いを続けたが、居心地を悪くして追い出すには龍気に負けない強力な悪霊が必要で、幼龍の体力回復を助けて立ち去らせるには回復を助ける貢物が不明という結論を出すまでしか至らなかった。




