59話
龍を追い出す方法の案出し。
最初は、言いだしっぺの満景が案を出すことにした。
「家やマンションに憑いた霊を追い出す方法なら、いくつか知っている。盛り塩をする。お神酒を部屋にまく。梁に札を貼る。祝詞やお経を唱える。九字を切ったり、禹歩を踏んだりもあるね」
「想像するに、どれも龍に効きそうにありませんね」
確かに龍なら、塩は舐めそうだし、酒は飲みそうだし、札や祝詞や経は気にしなさそうだし、九字や禹歩の効力が及びそうにない。
だが、満景が提案したいのは、その方法自体ではない。
「これらの霊を追い出す方法は、つまるところ霊がその場所に居ずらくする空間を作ることを目的としているんだよ。だから、あの龍も居心地が悪くなれば、自然と外に出ていくんじゃないかな?」
満景の提案に、話を聞いていた四人が納得の頷きを返した。
しかし間を置かず、手水舎が反対意見を出してくる。
「龍が居ずらくする方法と取るとして、龍が怒り出しては大変なことになります。言い伝えが本当だとすると、龍が暴れてマンションが倒壊する可能性も出てきます」
「龍が怒らない程度に、住み心地を悪くすれば」
「そも、龍が嫌うものについて、心当たりがおありなのですか。龍は酒好きという話は多くあれど、龍が何かを嫌っているという話は過分にして知らないのですが」
「それは……」
言われて、満景も龍が嫌うものを知らなかった。
ここに、力雄の言葉が割って入ってきた。
「神が嫌うものといえば、穢れだ」
確かに、穢れならば、龍も嫌いそうではある。
「ですが、穢れを持っている者が、この中に存在しているのですか? 言っておきますが、わたくしは穢れてはおりません」
手水舎の問いかけに、全員が難しい顔になる。
力雄は神社の息子で、奉納相撲という神事を行っている。穢れとは縁遠い暮らしであることは間違いない。
小里は情報屋であると同時に、管狐使いだ。彼女が持つ管狐が穢れを纏っていないのを見れば、小里自身も穢れていないことは分かる。
そして満景も、狗神作りを拒否したことで、穢れとは縁遠い身になっている。ペットだった老犬オシロが先日に死んで、その死の穢れがあるかもと考えるが、オシロは神に招かれていったので、死の穢れが起こっていないとも考えられる。
死を思い浮かべたところで、満景に新たな考えが浮かんだ。
「穢れが必要なら、別の場所から悪霊を引っ張ってくるっていうのはどう?」
悪霊は、強い感情を抱いて死んだ者の魂が、成仏できずに現世に残ったもの。
だから悪霊は、死の穢れをたっぷりと含んでいる。
悪霊を使役してマンションの部屋の中に入れれば、龍が穢れを嫌うのならば嫌な気分になるはずだ。
満景の提案に面々は光明を見出した顔になるが、横合いから水を差すように、鬼瓦先生の言葉がやってきた。
「悪霊があの中に入れるか、少し試してみたらどうだ?」
「試すって、悪霊は居ないのに、どうやって?」
「犬塚は人形を持っているだろ。呪を込めて、部屋の中に放ってみろ」
鬼瓦先生がそう言うのならと、満景は紙を人の形に切り抜いた人形を取り出す。
龍を攻撃する意図はないので、単純に空中を飛ぶように呪を込めるだけにしてから、人形を放った。
人形は、よくできた紙飛行機のように、空中を滑空しながら、マンションの部屋の中へ。部屋の廊下を通り、そして龍が眠るリビングへ。
人形の先端がリビングに入り込んだ瞬間、弾かれるような音が発せられた直後、人形が爆破されたかのように粉々になって廊下に落ちた。
余りの出来事に、満景だけでなく、光景を見ていた生徒たちも唖然とする。
そんな生徒たちの姿に、鬼瓦先生は笑いを押さえた声をかけてきた。
「ふふっ。さっき語ったろ。龍は龍気を発していて、その龍気は人を超人化する能力を持つ。そして龍気は、人間だけでなく、呪具にも影響を与える。いまの人形のように、龍気が許容量限界まで入ったことで破裂する。呪具に入れた呪を、龍気が塗りつぶして無力化する。呪いの人形が浄化されて、幸運の人形になるなんてこともあったらしい」
鬼瓦先生の説明を、使おうとしていた悪霊に当てはめるとどうなるか。
それを、満景はすぐに悟ることが出来た。
「生半な悪霊じゃ、龍に近づいただけで、雲散霧消してしまうってことですね」
「前の校外実習で出くわした、あの大きな悪霊なら五秒はもつかもな」
要するに、満景たちが用意できそうな悪霊じゃ、龍の住み心地を悪くすることはできないらしい。




