58話
龍をマンションの外に追い出す方法はあるのか。
その問いかけに、鬼瓦先生はニヤリと笑って見せてきた。
「方法はある。しかし今回の実習では、お前たちならどうやるのかの方法を考えてもらう」
鬼瓦先生の宣言に、ギヤマンが不機嫌そうな声を放つ。
「力尽くでやりゃあいいんじゃねえのか?」
梵字が書き込まれた特殊警棒を示しながらの言葉に、鬼瓦先生は呆れ顔を返す。
「おいおい。初校外実習のときに、あの程度の悪霊に通じなかった方法が、神の一種である龍に通じるわけないだろう。その警棒で殴ったとしても、痛みすら感じないだろうな」
「チッ。そうかよ」
ギヤマンは苛立たしげに吐き捨てると、むっつりと黙り込んでしまう。
その苛立ちは、警棒が龍に通じないことに腹を立てたというより、龍に通用しない自分の実力の無さに歯がゆさを感じた感じだった。
満景は、生徒の実力程度の力尽くでは通用しないことを知ると、他に方法がないかを考える。
その思考を邪魔するかのように、小里が満景を突いてきた。
「ねえ、満景。龍を外に出す方法、知ってたりしない?」
「……それって、こっちの言葉だと思うけど? 小里さんは情報屋なんでしょ?」
「情報屋たって、なんでも情報を集めているわけじゃないかんね。龍を家の外に出す方法だなんて、売り先に困るような情報を集めたりしないから。龍に纏わることを任せられる人の情報はあるけど、依頼料がバカ高いんだよねー」
確かに、龍が住みついて困っている人間なんて、日本中を探してどれだけいるだろうか。
そも、龍を追い出す方法を情報料で買うよりも、龍を追い出す方法を知る人物の情報を持っておいて仲介料を貰う方が、情報屋としては楽に稼げるだろう。
だから小里は、龍を追い出す情報は知らずに、龍の相手を出来そうな人の情報は知っているのだろう。
「龍に纏わる案件を任せられる人か。僕にも思い浮かぶ人がいるけど」
満景の師匠の一人――エビス顔の占い師である浅葱信念は神道系に強い人物だ。神道系の神様に繋ぎをつけられる彼ならば、龍のあしらい方を知っていても不思議ではない。
そんな浅葱に連絡を取ろうかと考えると、鬼瓦先生から忠告が飛んできた。
「もう一度言っておくが、この実習の目的は、お前らが龍を追い出す方法を考えることだ。だから他の人からやり方を教えてもらうってのは禁止だからな」
先回りで禁止されてしまったので、満景は大人しくやり方を考えることにした。
一方で小里は、自分で考えることを早々に放棄して、手水舎と力雄に話しかけにいっている。
「芍香ちゃんは、旧家のお嬢様なんしょ。そんで力雄は、神社の息子だよね。二人とも、龍を追い出すやり方知ってたりしない?」
「生憎ですけれど、やり方は知りません。言い伝えで、龍を怒らせると村が滅ぶといったことは知っていますけれど」
「うちの神社は、龍とは関りが薄い」
つまり、誰も龍を追い出す方法を知らないようだ。
それならと、満景は力雄に質問する。
「力雄の相撲で、あの龍を窓の外に押し出すことはできないかな?」
「正味、難しい。神に打ち勝つための相撲ではない」
力雄の相撲は、奉納相撲で神を喜ばせる相撲だ、という意味だろう。
「なら、手水舎さん。言い伝えの龍が怒ったっていう話の中で、何をやって龍が怒ったかは伝わってる?」
「詳しい方法は伝わっていません。最初から怒っていたり、社や祠が壊れたのが原因だったりですね」
「じゃあ逆に、怒った龍を鎮めるやり方は?」
「そちらは主に生贄を用いたようです。歴史が下ると、貢物に変わったようでもありますけれど」
どちらの情報も、龍を追い出す取っ掛かりにすらならなかった。
「龍じゃない相手を追い出す方法で、龍を相手に使えそうな方法を出し合った方が良いかもしれないね」
満景がそう提案すると、他の面々も案に乗ってきて、方法の出し合いが始まった。




