56話
二回目となる校外実習。
六人組の班として、満景たちと引率の鬼瓦先生は、ある場所に到着した。
「タワーマンション?」
満景が思わず呟いた通りに、天を突かんとするほどに高層のタワーマンション。外観は、新品同然とまでは行かないものの、真新しさがある築浅の建物だった。
周囲の空気や臭いも自然なので、忌み地でもなく、地鎮祭が行われて建てられた場所であることもわかる。
(となると、マンションのどこかの部屋で、この世に未練を残して亡くなった方の悪霊が出ているのかな?)
満景は、そんな予想を立てながら、先頭を歩く鬼瓦先生について歩いてタワーマンションの中へ。
すると、流石はタワーマンションのエントランスだけあり、常駐のコンシェルジュがいた。
鬼瓦先生は、そのコンシェルジュに近寄っていく。
「事前に連絡していると思うが」
「ご用命は承っております。こちらが部屋の鍵でございます。エレベーターを使う際にも、パネルにかざすことで使用できる仕組みになっております」
鬼瓦先生はカードキーを受け取ると、満景たちを連れてエレベーターへ。
エレベーターは四基あり、低層、中層、高層、そして最上階付近と、止まる階の括りごとに一基ずつ振り分けられている。
鬼瓦先生がカードキーをかざしたのは、高層へ向かうエレベーターだった。
高層へは、高速エレベーターを使っているようで、階の表示が上がる速度がかなり早い。そして一分も経たずに、地上何十メートルまの階層まで到着してしまう。
開いたエレベーターの扉を潜って、目的の階に下り立つ。
その直後、満景は今までにない臭いを感じた。
大量のワサビや辛子を誤って口にしたときのような、鼻の奥を突き破らんばかりの刺激臭だった。
「なんだ、いったい」
満景は鼻を片手で押さえながら、反射で出てくる涙をもう片方の手で拭う。
そんな満景の他にも、この階に下りて様子に変化を起こした人物が複数いた。
力雄と若槻だ。
力雄は、厳めしい顔を更に厳めしいものにすると、廊下の先へと厳しい目を向ける。その顔は、まるで戦うべき相手に挑む前のようだ。
そして若槻は、彼女の周囲からビリビリと空気が震える音を立てている。それは明らかに、彼女の守護神が粗ぶっている様子を示していた。
そんな満景を含めた三人を、鬼瓦先生は見て笑みを浮かべる。
「お前らの様子を見れば、相手が確定したも同然だな。悪霊とは違うから新たな教材としては的確だが、いやはや」
鬼瓦先生は、何かを知っている様子で、廊下を歩き始める。
満景はその後について歩きながら、強くなってくる臭いが我慢ならなくなり、制服の内側から取り出したマスクで顔の下半分を覆った。これで幾分か、臭いが落ち着いた。
若槻の守護神が発している空気の震えも、段々と強くなっていく。そしてある地点から、ピタリと若槻の足が止まった。
「先生。どうやら、これより先には進めそうにないです。わたしの神様が、許してくれないみたいです」
「そいつは仕方がない。エレベーター前に引き返すのを許可する。だが、これから先もそんな感じじゃ困ることになる。自分の守護神ぐらい、自分で手綱を握れるようになっておけよ」
鬼瓦先生の助言に、若槻は頷いてから来た道を引き返していった。
その若槻と場所を入れ替える形で、小里が満景に近づいてきた。
「でさ、満景が感じるに、今回の相手はどんな感じ?」
「僕が感じているのは臭いだから、相手が的確に何なのかは分からないんだ」
「でも、どんな種類の相手かはわかるっしょー?」
それぐらいならと、満景が頷く。
「悪霊はドブや腐った肉のような臭いなのが典型だ。そして今回感じているのは刺激臭」
「その場合だとー?」
「強い力を持った存在。嫌な臭いがないあたり、ケガレをもっていないことは確定だね」
その存在が何かを口に出す前に、どうやら目的の部屋の前に到着したようだ。
「いいか。気をしっかり持てよ」
鬼瓦先生は注意を放ってから、カードキーでマンションの一室の扉を開けた。
その瞬間、満景の感覚からすると、扉によって抑え込まれていた臭いが廊下の中へと怒涛のように溢れ出てきた。
マスクをしても目にくる臭いの中、満景は開けられた扉の向こうにいる存在を目視した。
「この臭いは、やっぱり神霊の類のものだったか」
家具がないリビングの中央に、とぐろを巻く蛇のような存在が我が物顔で鎮座していた。




