55話
初の校外実習から一週間が経過した。
その間の午後授業は、それまでと同じように、呪具作りが実習内容になっていた。
しかしこれまでの実習と違い、生徒たちは真剣に呪具を作るようになっていた。
あの校外実習を通じて、呪具一つで身が助かるか否かが決まると実感できたことで、呪具製作に身が入るようになったからだろう。
満景の班員であるギヤマンも、巨大悪霊を通じて自分の実力不足を実感したからか、呪具製作に文句を言わなくなった。けれど言わないだけで、顔に出る表情は『呪具を作るよりも、直接敵を祓う方法を教えて貰いたい』と語っていた。
そんな日々を経て、今日から校外実習が再開される。
A組の生徒の数は、鬼瓦先生が語ったように自主退学を選んだ生徒が三人出て、合計で三十二人となった。
そして、これから始まる校外実習では、その三十二人を六つの班に分けて、東京都のあちこちへと出向くことになるという。
「あの神社での実習のような大量の悪霊と戦う事例は、一年の内に数回ある。次の時期が来る前に、少数の悪霊と戦う実習で生徒に実力をつけてもらうのが、これからの実習の目的だ」
鬼瓦先生が説明の後に、生徒たちを六つの班に分けた。
分けたといっても、呪具作りの実習と同じ面々がそのまま組み込まれた形が殆ど。
満景が入る班も、小里、力雄、ギヤマン、若槻と、呪具作りと同じ面々だったのだが、ここに新たな人物がひとり追加で入った。
「どうしてわたくしが、友人と別れてでも、この班に入らないといけないのかしら」
手水舎芍香は、不満たらたらな様子で、満景の班に参加した。
満景は手水舎の態度にしり込みするが、小里がウザ絡みしにいった。
「しゃっかちゃんってばー、イライラしてっと、可愛い顔が台無しだよー?」
「頬を突かないでくださいな。それに、別にイライラなんてしてません」
その言い分は無理があるだろうと、手水舎の態度を見ている人なら誰もが感じただろう。
しかしそう言うのならと、満景はよくよく手水舎を観察してみた。
手水舎はイライラしている態度を取っているように見える。しかしその顔には、どことなく不安感が滲んでいる用にも感じられる。
(もしかして、仲の良い友達と引き離されて、あまり見知っていない僕たちと組まされたことに、不安を感じているとか?)
そう考えると手水舎の態度の真意は、自分が不安を感じていることを周囲に知られないようにと気を張っているからとなる。
そして実際、小里は情報屋として生徒の大部分とに顔繋ぎを果たしている人物なので、手水舎は小里に絡まれてから態度が軟化している。
どうやら手水舎は、立派に生徒たちに指示を出していたときと似合わず、人見知りの気があるらしい。
そうと知ればと、満景は手水舎に挨拶することにした。
「余り知らない人と同じ班になって不安もあるともうけど、これからよろしくね、手水舎さん」
「悪魔を召喚するような方は危険なので、あまりよろしくしたくありませんけど、仕方ありません。大衆を導くのも、名家たる手水舎の娘の役割ですので」
マウントを取る言い方も、不安感の裏返しだと分かっていれば、微笑ましい光景にしかならない。
小里に続いて満景が言葉を交わしたことで、会話への敷居が下がったのだろう。ギヤマン以外の面々も、手水舎を歓迎するように話しかけ始めた。
どうしてギヤマンだけが、手水舎と仲良くする気がないのか。
満景は気になり、ギヤマンに胸の内を尋ねることにした。
「ギヤマンも、悪霊と戦ったとき、手水舎さんの指示に従っていたでしょ。それなのに、どうして?」
「……俺は、金持ちや古くから続く家ってのが嫌いなんだよ。あいつら偉そうにする割に、霊障に対して腰抜けぞろいだからな」
「口ぶりからすると、自分の目と耳で見聞きした感じだね」
「閻魔寺を何時も不良の集まりだって詰る金持ちが、悪霊憑きの芸術品を手に駆けこんで泣きついてきたのは、いまでも笑い種になってるぜ。旧家の蔵の中から呪物が見つかって、他の霊能者に断られたからって、口惜しそうな顔で依頼してきたヤツもいた」
ギヤマンの口ぶりからすると、言葉と実行が噛み合っていない点に不満を持っているようだった。
仮に、日頃閻魔寺を悪く言う人が、どうしようもない霊障を受けて困ったとしても、決して閻魔寺を頼りにしなかったのならば、ギヤマンは一定の評価を与えただろう。
要するに、芯が通ってないとか筋が通ってない人物が、ギヤマンは嫌いなのだろう。
そんな感じに生徒間で交流を深めていると、鬼瓦先生が近寄ってきた。鬼瓦先生が、満景を含む班の担当教員のようだ。
「おーし、全員いるな。お前たちの班は、前の校外実習で良い腕前を見せた者たちを集めた感じだ。だから、これからの実習でも、少し危険な案件を担当することになる。心するように」
鬼瓦先生の忠告に、満景と小里は嫌そうな顔になり、力雄は厳めしい表情を硬直させ、ギヤマンは戦闘意欲が高まった表情になり、若槻は相変わらずの微笑みで、手水舎は不安感が表出した顔になった。




