47話
押し寄せてくる悪霊たち。
それらを、A組の生徒たちは共闘し、神社の結界を利用して、食い止めることができていた。
実習の最初は大量の悪霊に怖気づく者もいたというのに、確実な戦果を得られていることに、生徒たちの気持ちが段々と浮ついてきている。
その浮つきの最たる原因となっているのが、最前線で警棒を振るって戦っている、ギヤマンの態度だった。
「大したことねえなあ! おら! どんどん来やがれ! 全部、警棒の錆にしてやんよ!」
ギヤマンは悪霊たちを侮る言葉を吐きながら、悪霊たちを揶揄うように自分から近づき、そして余裕があることを示すような身動きで攻撃する。
そんなギヤマンの余裕そうな態度が、A組の生徒たちに伝播し、悪霊たちを侮る空気が流れ始める。
「なーんだ。心配してたけど、結構簡単だ」
「悪霊っていっても、ちょっと術で小突くだけで倒せるんだもんな」
楽な相手と侮って、生徒たちの攻撃の頻度が少し落ちた。
しかしそれでも、悪霊たちを倒すことができている。
そのことに対して、全体の指揮をしていた手水舎が叱咤する。
「手を休めてはなりません! 気を抜くのは、悪霊を全て払い終わってからになさい!」
叱られて、生徒たちの攻撃頻度が上がるが、少し時間が過ぎただけで、再び攻撃頻度が下がり始めた。
二度三度と叱っても意味が薄いと判断したのだろう、手水舎は攻撃頻度を上げるのではなく、頻度が下がった攻撃で最も効果がある場所を狙うようにと指示し始める。
そんなA組生徒たちの様子を見ながら、満景は弾切れになった電動自動銃の弾倉を交換する。その後で、小里の腕を軽く引いて、立ち位置をより後ろへと変更するべく移動する。
「えっ、ちょ、どした~!?」
「ちょっと雰囲気が拙くなってきたから、より安全な場所に移動しているんだよ」
「拙いって、どうゆうこと?」
「小里さんの管狐が教えてくれた、大型の悪霊が近づいているんだ。臭いがしてきたから」
満景が言葉にした直後、神社の鳥居の向こうの景色に変化が現れた。
今までは、集まった悪霊の周りの空間に、黒い靄のようなものが集まっていた。
しかし今、その黒い靄の濃さがどんどんと上がっていく。
やがて、空間が墨汁で染まったかのような、先が見通せないほどの黒い靄が鳥居の向こうに立ち込めてきた。
その真っ黒な靄の中から、ずしゃずしゃ、っと硬く乾いたものと柔らかく湿ったものが同時に地面に当たるような音が聞こえてきた。
異様な音に、余裕ぶって気を抜いていた生徒たちが、一様に肝を冷やした顔色に変わる。
「な、なんだ、何の音だ!?」
「鳥居の向こうからの音だ。悪霊が出しているんだ」
「こんな音を出す悪霊なんて、今までいなかっただろ」
生徒たちが口論のような意見交換をしている中、ずしゃっという特徴的な音が更に鳥居に近づく。
ずしゃずしゃ。ずしゃずしゃ。
音が近づけば近づくほどに、生徒たちの目が真っ黒な靄の中を見通せるようになってくる。
ずしゃずしゃ。ずしゃずしゃ。ずしゃずしゃ。
先頭で戦うギヤマンと、その隣で四股を踏んでいる力雄。二人は戦いに集中しているため、靄の中に目を向けていない。
ずしゃずしゃ。ずしゃずしゃ。ずしゃずしゃ。ずしゃずしゃ。
前線の二人の後ろに陣取る生徒の一人が、不孝なことに霧の中を見てしまう。
「ひっ! おごげっーー!」
霧の中にあったものが、余りに衝撃的だったため、見てしまった生徒が神社の石畳へ嘔吐した。
ただならない様子に、嘔吐する生徒の近くにいた別の生徒たちが介抱しようとする。
その生徒たちもまた、音の発生源の距離を縮めたことで、靄の中を見てしまう。
先に嘔吐する生徒を見て、衝撃的なものが中にあるのだと察することができたからか、その生徒たちが嘔吐することはなかった。しかし、嘔吐しそうなほどに気分が悪い顔色に変化する。
「うっ、な、なんだよ、アレ」
「デカいぞ。そして気持ち悪りい」
「あんな悪霊、初めて見る」
靄の中にいる悪霊に怖気づき、生徒たちは嘔吐していた生徒を掴んで引きずり、後退していく。
その事実に、指揮を担当している手水舎が、その生徒たちへと苦情を口にする。
「なにしているのです! 持ち場に戻りなさい!」
「い、いやだ! あんな悪霊と戦うなんて!」
「あんなもの、目にするだけで呪われるに決まってる!」
完璧に怖気づいて、役立たずになり果てている。
手水舎は、その生徒たちを戦力外と判断したようで、他の生徒に向かって声を張り上げる。
「遠距離攻撃が可能な方は、あの黒々とした靄の中に向って攻撃するのです! 直視しないよう気を付けつつ、当てずっぽうで構いません!」
手水舎の号令を受けて、遠距離攻撃ができる生徒たちが一斉に黒い靄へと攻撃を放った。
満景も、管狐が教えてくれた強力な悪霊があの黒い靄の中にいるんだろうと予想しつつ、取り換えたばかりの弾倉が空になるまで電動自動銃からBB弾を靄の中へと放った。
遠距離攻撃限定とはいえ、A組の生徒たちは全力で攻撃した。
しかし、その攻撃がまるで通じていないかのように、あの特徴的な音が聞こえ続けている。
いや、その音の中に、新たな音が交ざっていた。
ずしゃずしゃ。ぼりごり。ずしゃずしゃ。ぼりごり。
鳥居へと近づきつつ、何かを食べているかのような音。
何を食べているのかは、近づきつつある黒い靄の付近にいる悪霊を見ればわかる。
ぼりごり、と音が鳴る度に、何体かの悪霊が黒い靄の内側に入り込んでいた。
「近くの悪霊を取り込んでいる。管狐が教えてくれた通りだね」
満景は、黒い靄の悪霊を警戒しながら、小里と共にもう少し立ち位置を下げた。
神社に集まる悪霊たちも、背後に近づいてきている黒い靄は自分たちを食べる気だと分かったのだろうか。
悪霊たちは、黒い靄に場所を譲るように、鳥居へ続く道の左右に分かれて場所を開ける。
ずしゃずしゃ。ぼりごり。ずしゃずしゃ。ぼりごり。
異音を立てながら、靄がゆっくりと鳥居に近づいてくる。
そしてとうとう、鳥居の間近まで黒い靄が到達した。




