46話
数体の悪霊が神社の中に入ってきた。
その事実を見て、神社内が必ずしも安全じゃないのだと、再び生徒たちに動揺が広がる。
しかし、この動揺を消し飛ばすように、ギヤマンの咆哮が響いた。
「クソ霊が! 成仏しやがれ!」
入ってきた悪霊を、特殊警棒で殴りつける。続けて、BB弾が入った拳銃で腹を狙って発砲。
それだけで、入ってきた悪霊の全てが、形を保てずに霧散した。
ギヤマンは、特殊警棒を自身の肩に置くと、鳥居の前でまごついている悪霊に向かって手招きする。
「おい、根性見せろ。さっさと入って来いや!」
このギヤマンの求めに応じるように、今度は十体近い悪霊が一気に入ってきた。
ギヤマンが警棒で殴り、拳銃で撃つ。
しかし手数が足りず、悪霊の一体に触れられそうになった。
そのとき、横合いから張り手がやってきて、悪霊を打ち払った。
張り手を放ったのは、ギヤマンの近くで腕組み待機していた、力雄だった。
「チッ。助けに入って来なくたって対処できたんだ。だから感謝の言葉は口にしねえからな」
「……俺の出番だ」
力雄は、着ている甚平に手をかけると、一気に脱ぎ捨てた。
急な脱衣に、女子生徒から悲鳴とも非難ともとれる声が上がる。
しかし力雄は、脱衣したとはいえ、全裸になったわけではない。
鍛え上げられた肉体を固辞するよう、上半身は裸になっているが、下半身には黒い『回し』を着けていた。
その力雄の姿は明らかに――
「お相撲さん?」
――生徒の誰かが呟いたように、曲げはなくとも力士の姿だった。
「ぬうん!」
力雄は、腰を落とした体勢から高々と片足を天へ向かって上げ、そして振り下ろす。四股と呼ばれる動作だ。
下された足によって、ずしっと地面が踏みしめられる音が響いた。
すると不思議なことに、神社の結界が強まったようで、圧力によって潰れる悪霊の数は変わらないのに、入ってくる悪霊がでてこなくなった。
ずしっずしっと足音が響く中、再び手水舎が号令を発する。
「手を止めてはなりません。さあ、攻撃するのです!」
悪霊が入ってきたことに驚いていた生徒たちの攻撃が再開され、再び悪霊たちの数が大きく減る。
悪霊たちも底意地を発揮し、力雄が四股踏みで強化している結界を通り超えて、神社の境内に侵入する。
しかし一度に数体きりでは、戦闘に張り切るギヤマンの餌食になるだけだった。
このまま推移すれば、大した騒動もなく悪霊退治は終わりになるだろう。
生徒の誰もがそう感じてしまう中、唯一小里だけは終始怖気づいた様子のまま。
その小里が、満景に耳打ちする。
「いま、うちの子に周囲を探らせたんだけど、やっばいのが奥にいるって」
「ヤバいって、強力な悪霊ってこと?」
「なんか、他の悪霊を食べて力にしているんだと。んで、このままいくと、ここに乗り込んできそうだって」
悪霊を食べる悪霊と聞いて、満景の頭の中に浮かんだのは、蟲毒の法だった。
蟲毒の法は、本来は虫をツボに入れて戦わせ、生き残った虫を呪術の材料に使うためのもの。
しかし現代では、虫ではなく悪霊を一所に入れて戦わせ、生き延びた悪霊を使役して呪殺に使う方法に変じている。
その呪法と同じ効果を、小里の管狐が察知した、ヤバい悪霊が行っているらしい。
蟲毒の法で作られた悪霊の危険さを、満景は師匠の一人から教わっていた。その師匠は、占い師を始める前は呪殺対抗術のプロで、その仕事で体験した蟲毒の悪霊における苦労話を語り、満景の実力じゃまだ無理だと諫めたのだ。
満景は、このままでは危険と判断し、小里を連れて鬼瓦先生のもとへ。
小里が掴んだ情報と共に危険性を伝えたものの、鬼瓦先生は取りつく島のない態度だった。
「大物が来るっていうのなら、実習に箔がつく。ほら、持ち場に戻った戻った」
追い返されるようにして、満景は小里と共に先ほどまでいた場所に戻されてしまった。




