43話
午後は、いよいよ悪霊退治の実習だ。
一年A組は、学校所有の大型バスに乗り、世田谷神社へ。
その道中、鬼瓦先生がマイクを手に、注意事項を口にする。
『事前調査でA組の生徒は、それぞれに悪霊退治の心得があることが分かっている。それぞれの方法で悪霊を祓ってくれて構わないが、学校が推奨する戦い方もある。これからそれを喋っていくが、自分自身の悪霊退治の腕前に心配がないのなら聞いていなくても構わない』
満景は、悪霊退治の腕に自信はないものの、弱い悪霊を祓う程度のやり方は知っている。
とはいえ、鬼瓦先生が語る学校推奨の戦い方も気になるので、話に耳を傾ける。
大半の生徒が聞く耳を持たない中で、鬼瓦先生の解説が始まった。
『学校では、生徒の安全を考慮して、遠距離武器による攻撃を推奨している。市販品の聖水を入れた水鉄砲や、梵字が書かれたBB弾を使用する電動銃に、鳴弦の儀のための小型の弓だ。それと悪霊が近づいてこないよう、抹香を炊く炉、清めの盛り塩、聖域を作るための杭なんてものもある。どれも数に限りはあるが、希望者は貸し出すことが可能だ。希望する者はいるか?』
鬼瓦先生の問いかけに、満景は興味本位から手を上げた。
同じタイミングで、横に座っている生徒も手を上げた。
満景が一緒に悪霊退治をやると約束した、小里だ。
他に手を上げる生徒がいないか、満景は鬼瓦先生と共に周囲を見回す。
すると意外なことに、ギヤマンが手を上げていた。
『希望者は三人か。その三人は、バスを下りた後で俺のところまで取りにきてくれ。続いて、悪霊との戦い方についてだが――』
霊能者の多くは、悪霊払いの際に距離を取って戦うことが多い。念仏を唱えたり祈祷を行ったりするには、それなりに時間が必要だからだ。
だから接近戦で悪霊祓いができる者は、できるだけ接近戦を行って、距離を取って戦う生徒の安全を確保して欲しい。
鬼瓦先生の戦い方の説明を要約すると、以上となる。
(接近戦か。できないわけじゃないけど)
満景が師匠たちから教わった中には、身体を用いて悪霊を打ち祓う方法がある。
しかし今回の悪霊退治においての満景の役割は、悪霊退治が得意じゃない小里の安全を守りながら戦うこと。
加えて先ほど、学園から配布される遠距離布武器を使うことを、興味本位から求めてしまった。
以上の二点から、満景は小里と共に遠距離から武器を使って戦うことが、既定路線だ。
(引率の先生もいて、生徒が危なくなったら助けてくれるだろうし)
満景は、鬼瓦先生の要求に対して申し訳なさを感じつつ、今回は遠距離から戦う方法を選ぶことにした。
バスが世田谷神社付近に到着し、生徒たちがバスから外へと出てくる。
満景、小里、ギヤマンは、鬼瓦先生と共にバスのトランクへと移動し、その中にある配布装備を選ぶことになった。
満景は、所有する自作の札や人形で防御面は十分だと判断し、アサルトライフルを模した大型の電動自動銃と専用BB弾が入った大容量マガジンをいくつか借りることにした。
小里は、あくまでその場で自衛に徹して戦うことに決めているのか、聖水が入った水鉄砲と香炉を選んでいた。
ギヤマンは、拡張マガジンがついた電動自動拳銃を選び、そしてBB弾をガスの圧力で周囲にばらまく手榴弾をいくつか借りたようだ。
手榴弾をパーカーの中に入れながら、ギヤマンは鬼瓦先生に顔を向ける。
「先生よお。俺、前線で戦うから。構わねえよな?」
「構わないどころか歓迎するが、どうして前線で戦うのに電動拳銃を借りたんだ?」
確かに、悪霊と近接戦闘をするのなら、電動拳銃を使う意味は薄い。
しかしギヤマンには、ギヤマンなりの言い分があるようだ。
「決まってんだろ。大手を振って、こういう玩具を使える機会ってのは、何気にないからだ。除霊道具だってのに、警察に見つかると五月蝿いんだぜ」
ギヤマンの説明に、満景は自分が手にしている大型の電動自動銃に目を向けて、さりもありなんと頷く。
傍目で銃だと見える物を手にして歩いていたら、警察に見咎められても仕方がないなと思って。
しかしここで、近くにいた小里から小声での説明が入った。
「ギヤマンとその親が所属する武装集団閻魔寺は、過激派除霊集団として公安にマークされているんだー。だから、ちょっと使いどころの怪しい物を買うと、すぐに警察がすっ飛んでくるって寸法なわけ」
「過激派って?」
「除霊の仕方が荒っぽいんだよねー。霊体を殴る蹴るは当たり前。霊が入った霊障を起こす物品は、どれほど思い入れがあっても、どれほど高価であっても、容赦なくぶっ壊す。霊や悪魔に憑かれて暴れる人も、容赦なくボコボコにして身動き取れないようにする。悪神を封神するために廃神社を丸ごと燃やしたって噂もあったりねー」
「それは、とても過激だ」
「どんなに過激でも、ちゃーんと除霊はできちゃうから、除霊活動として認めざるを得ない点が厄介なんだよねー。物を壊しても、人を傷つけても、除霊の際のアクシデントとして処理されちゃうから、罪に問えないからねえ。これで大金を奪われるってんなら、警察も動きようがあったんだろうけどさー」
「閻魔寺は、除霊料金が良心的なの?」
「べらぼうに格安ってわけじゃないけど、かなり安いんよ。だから、多少色々と壊されようと、安いならいいかって依頼者の心情がなりやすいっぽくてね」
そんな法律上は問題ない活動ではあっても、過激ゆえに警察に目を付けられているということらしい。
しかしその事実は、満景には逆に安心感を与えてくれた。
警察が目を付けるほどの暴れっぷりで戦ってくれるのなら、遠距離で戦う生徒はより安全になるに違いないと思ったからだ。




