42話
月曜がきた、熊野高等専修学校。
満景が登校すると、すでに小里が席にいた。
小里は満景が来たのを知ると、蹴立てるように椅子から立ちあがって、満景へと近寄った。
「ねえねえ。アレ、作ってくれた!?」
必死な様子の小里に、満景は苦笑いしながら制服の内ポケットから、ある物を取り出した。
「ちゃんと作ってきたよ。小里さんが自分で磨いて作った、浄化の水晶。それを入れる紐編み籠のネックレス」
赤い紐が編まれてネックレスになっていて、その一部に目の細かい編み籠がある。
満景は、小里から彼女が作った浄化の水晶を受け取ると、ネックレスの編み籠の中へ。
籠の口を閉じ、開かないように抑えの役目がある金具を取り付けて、完成。
「これが破魔のネックレス! ありがとう、満景!」
破魔のネックレス。
常に浄化の水晶が装着者の身体に触れていることで、どんな悪霊が身体に憑りついても即座に祓うことができる。
ちなみにネックレスに編みこまれた水晶が持つ浄化の力が及ばないほどの悪霊に憑かれると、水晶が砕け散ってしまって効果が発揮されなくなってしまう欠点がある。
紐を編むという細かい作業が、小里は苦手だったようで、その手の作業を苦にしない満景に作成を依頼したのだ。
「いいってことさ。ついでだからね」
満景は言いながら、自分の首にかかっている青い紐を引っ張って、胸元から自分の破魔のネックレスを出して示す。
ちなみに実習室で同じグループになった他の面々には、この編み籠の紐は作っていない。
力雄は、大柄な体躯に似合わず細かい作業が得意らしく、そして破魔のネックレスじゃないやり方で浄化の水晶を使用するらしい。
ギヤマンは、悪霊に憑かれる対策をするなんて軟弱だと言って、課題だからと作った推奨を警防で叩き割っていた。
若槻は憑いている神が悪霊や他の神を追い払うため、破魔のネックレスを必要としなかった。
ともあれ、満景はネックレスを渡すついでにと、化粧ポーチを小里に差し出す。
見るからに安っぽいポーチを手に、小里は首を傾げている。
「男性から女性へのプレゼントにしては、めっちゃ安もんじゃん。こんなんで、私を落とせるだなんて思ってんのかにゃ~?」
「そういう揶揄いは要らないから。それ、対悪霊対策のグッズの詰め合わせ。身を護る方向で色々入れてあるから」
「えっ、マジ! そういうのは、最初に言ってくれないとさー」
小里はいそいそとポーチの留め具を開けて、中身を確認する。
中には、紙の人形が十枚、文字が書かれた護符が三枚、小さなパウチに入った塩、市販品のキャラメルが一箱、満景が余分に作った浄化の水晶が一つ、入っていた。
そんな中身を確認した後で、小里は満景に疑問顔を向けてきた。
「霊能グッズっぽい物の中に、なんでキャラメルがあんの?」
「食べ物を口にするのも、悪霊対策の一つだよ。悪霊には、飢饉で死んだり道に迷って飢え死んだものが一定数いるからね。その手の悪霊は、食べ物を口にするだけで、身体から離れたり、祓いやすくなったりするんだ」
「へー、それでね。じゃあキャラメルじゃなくても良いんだよね?」
「いいけど、日持ちして手軽に口にできる食べ物じゃないと、咄嗟の際に口にできなくて大変だからね。食べ物を自分で準備するのなら、考えて用意してね」
「りょうかーい。とまれ、ありがたくポーチ貰ちゃうねー」
小里は私服のズボンのベルトを一度解くと、ポーチをベルトに汲みつけてからズボンに巻き直した。
二人がそんな会話をしていると、教室に生徒が入ってきた。
その生徒は、流山歯車男ことギヤマン。
何時もは無遠慮に周囲に威圧感をばら撒いている彼だったが、今日はなぜか上機嫌だ。
席に着いたギヤマンが、私服のオーバーサイズパーカーの内から、例の特殊警棒を取り出して布で磨き出す。
その姿を見れば、ギヤマンの機嫌が良いのは、今日から始まる実習で悪霊との戦いを心待ちにしているからだろうと予想がついた。
続けて、若槻が他数人の生徒と共に仲良さそうに教室に入ってきた。
小里は若槻を見つけると、破魔のネックレスを手に掲げて駆け寄っていった。
満景が二人が何か話している様子を遠巻きに見ていると、力雄が入室してきた。
力雄は、ギヤマンとは逆で、今日から始まる悪霊との戦いについて気が重い様子で、顔はいつものように厳めしいものの顔色は優れていない。
そして、更に普段とは違った部分があった。
「力雄、おはよう。今日は私服なんだね」
力雄は、満景と同じく、数少ない制服で登校する生徒だった。
それなのに、今日は私服。それも、作務衣姿だった。
力雄は、自分の席に座ってから、ボソリと私服でいる理由を口にした。
「今日は初日だ。制服を着たままで良いか確かめるためだ」
語ってくれた理由に、満景は理解することができなかった。
それでも、何らかの理由で私服なのだと察して、それ以上のことは気にしないことにした。




