2話
幼い頃から一緒に暮らしてきた、ペット二匹が相次いで居なくなった。
満景は、その事実に呆然としてしまっていたが、何時までもそうしてはいられないと身体に活を入れなおした。
「まずはオシロの遺体の供養からだ」
満景は、占いの館にいる師匠の一人である、ソコノ住職に電話をかけた。もちろん、ソコノ住職という名前は、占い師用の芸名である。
『おー、どうしたんだ、光景よ』
歳を経る毎に徳を積み上げた者特有の、人を無条件に安心させる声。
その声を聴いて、光景はペットを失った悲しみからの涙が目に浮かんできた。
「ソコノ住職師匠。オシロ死にました寿命です。供養したいのですが、良い方法はありませんか」
『そうか。ペットが死んで辛かろう。ペット用の火葬場が併設されている寺を知っておる。今から連れていってやろう』
「えっ。今日は占いの館での仕事が入っているんじゃ?」
『なに。占いの館には、他にも占い師はおる。今日儂が休んだところで、その相談者とは縁がなかったというだけのこと。縁があるのであれば、後日に自然と顔を合わせることになるであろうよ』
車ですぐ迎えに行くとの言葉を残し、ソコノ住職は通話を切ってしまった。
光景は、ソコノ住職は言い出したら止まらないしと、提案を受け入れることにした。
ソコノ住職が車で車での間、光景はオシロの遺体をオシロが好きだったタオルで包んだ。
「神界で神遣になろうとしているオシロに、線香や念仏をあげても良いんだっけ?」
神道と仏教はかつて併合していたし、魂の安寧を願う気持ちを神とて嫌がらないだろうと、光景は考えることにした。
光景は、納屋に置いてあった線香を数本取り出し、それに火を付けてからオシロに向かって念仏を唱える。この念仏は、ソコノ住職から教えらえた、どこの宗派で使っても不便が出ないものらしい。
その念仏を一遍唱え終え、二遍目の途中に差し掛かる頃、家の裏手の潜り戸の向こうに車が止まった音が聞こえてきた。
「おーい、光景よ」
先ほど電話口で聞こえたものと同じ声が聞こえたので、光景はオシロの遺体を抱き上げて移動し、潜り戸の外へ。
戸のすぐ先に、四ドアの軽自動車が止まっていて、その運転席にはグラサンに法衣姿の初老の老人がいた。
その老人こそ、ソコノ住職、その人だ。
「ほれ、後部作責にオシロを乗せよ。光景は助手席だ」
ソコノ住職に命じられた通りに、オシロを後部座席に安置し、光景は助手席へと移動して座った。
光景がシートベルトを締めたことを確認してから、ソコノ住職は軽自動車を走らせる。
「これから葬式を上げて火葬をするからにはと、ちゃんと学生服を着ているな。感心感心」
「いや、その。服装に気を使える心境じゃなくて、卒業式に出たままの格好なだけです」
「おや、そうなのか。とりあえず、中学卒業おめでとう。そしてオシロの事は残念だったのう」
「いえ。オシロは寿命でしたし、最後の最後は安心した顔つきでしたから」
「それは良い死に様だの。儂は、光景の家族が要らんことをするかもと、そんな危惧を持っておったがな。どうやら杞憂にすんでよかったわ」
「兄さんが言ってきた口ぶりからすると、僕が自分の意思でオシロを狗神にすることを望んでいたみたいです」
「ほんに、仏心どころか人の心もわかっとらん連中だ。なぜに生き物の命を愛しむ心を持つ子を粗雑に扱い、望んで犬の命を奪う子を大事に扱うのか。その気持ちが理解できん――いやさ、理解できないのは、儂の修行不足であろうな」
人の家族を悪く言ったことを恥じる顔つきになる、ソコノ住職。
光景は、そんなソコノ住職の心遣いに、自身の心が温かくなる。
その後二人は、他愛ない話を行い、やがてペット供養ができる寺に到着。
ソコノ住職が代金を建て替える形で、オシロの遺体の火葬が始まった。
オシロの遺体が焼き上がるまで、光景とソコノ住職は待機所のソファーに横並びで座って待つことにした。
「オシロがいなくなったということは、高校生を期にアゼンと共に家を出る気でいるということで良いのか?」
ソコノ住職の問いかけに、光景はアゼンの事を話していなかったと気付いた。
「アゼンもアゼンで、どうやら猫又になっていたようです。それで、もうすでに猫又の学校というところに修行に行ってしまっていて」
「おお! ペット二匹とも失ったのか。それは辛いな」
「いえ。アゼンは猫又として生きてますし、修行が終わったら戻ってくる予感があります。オシロの魂も僕のために神の遣いになる修行をする気でいるみたいで」
「なるほどの。光景がペットに愛情を注いで暮らしてkいたからこそ、ペット二匹ともに恩を返そうとしているというわけか」
「恩返しなんて。僕の方こそ、アゼンとオシロに気持ちが助けられてばっかりでした」
「お互いに与え耐えられの関係だった、ということか。それは仏道に叶う行いであるの」
「互いに布施を送り合う形ですからね」
「ちゃんと儂が語って聞かせた説法が身についているようだ。これは嬉しい」
ソコノ住職は、嬉しそうに笑ってから、表情を真剣なものにする。
「ペットが共に居なくなったのならば、ペット可の物件に移る必要はなくなったのだな?」
「言われてみれば、確かにそうですね」
「ペット不可の賃貸物件であれば、格安で紹介できるものがあるのだが、どうする?」
「ソコノ住職もご存じの通り。高校生になったら家を出ると決めた際に、占いの館の一人である鎮真人さんから「風水的にばっちりヨ」と太鼓判を貰った部屋を、ソコノ住職の保証の下で仮契約しているんですけど?」
「仮契約であれば、まだ解消可能ということ。心配は要らん。それに紹介しようとしている部屋は、その部屋の三分の一だ。しかも通う学校から更に近い場所の部屋だ」
ソコノ住職が語る内容が良い条件過ぎて、光景は逆に怪しく思えてきた。
「……それだけ格安なら、要らないものも『憑いて』そうですけど?」
「見破られてしまったように、その部屋には悪霊が憑いている。だが光景であれば問題なかろ?」
「まあ、占いの館の師匠たちから、除霊浄霊に呪い返しから神霊鎮魂と悪魔退散まで教えて貰ってますから。大変な大物が出てこない限りは」
「問題がないのなら、決まりだの。それに、これも人助け。悪霊が憑いた部屋に困っている大家も入居者ができて喜ぶというものよ」
カッカッカと笑うソコノ住職に、光景は呆れ顔を返したのだった。
以後、一日一話更新を予定しております。
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