119話
A組の生徒たちは、特殊な場所へ校外実習へと向かうことになった。
これまでの校外実習では、一日一日別の場所で学んできた。
しかし今回は、同じ場所で連続五日間学ぶことになっているらしい。
やってきたのは、東京都心部にある、広い敷地を持つ有名な神社。
正面鳥居から入り、長い石畳の通路を歩いて、本殿へ。
全員で本殿でお参りをしてから、神官の案内を受けて、また通路を進むことになった。
本殿から敷地の奥へと続く道を歩いていき、そして通路の途中にある竹で作られた柵の場所で、神官は足を止めた。
神官が柵に向かってスマホを操作すると、小さく鍵が外れる音が竹の柵からした。
「こちらへ」
神官が言いながら柵を押すと、扉のように柵が開き、森の中へ続く土の通路が現れた。
A組の生徒全員が、その道に踏み入ってから、神官は柵の隠し扉を閉める。すると自動的に鍵が閉まる音がした。
生徒の一人が興味を抱いた顔で隠し扉を押してみるが、鍵はちゃんとかかっているようで開かなくなっていた。
再び神官の案内が始まり、生徒たちは二人が並んで歩ける幅の野道のような通路を進む。
やがて生徒たちの前に現れたものは、周囲を木々で囲まれた中にある、大きな神社だった。
先ほど参拝した本殿と同じ規模の建物を見て、生徒の一人が疑問顔でスマホの地図アプリを開く。そして衛星写真モードで、この神社の敷地について調べた。
「やっぱり。こんな建物、地図に載ってないぞ」
その生徒が近くの友人にスマホの画面を見せる。
画面に映っている上空からの写真では、いまいる場所一帯は木々に埋もれた森となっている。
目の前にある大きな神社など、上空写真の何処にも存在していない。
別の地図アプリで調べる生徒が出るが、そちらのアプリにも、この隠し神社のような建物は存在していなかった。
そんな生徒たちの行動を予見していたのか、神官が笑みを浮かべる。
「神社の土地は私有地ですから、プライバシー保護の観点から地図を司る企業にお願いすれば、隠したい部分は隠してくれますよ。探してみれば、神社仏閣だけでなく、普通の邸宅にモザイクがかかっていたり、地図上から消されたりしています」
そんな地図のことよりもと、神官は森の中にある神社の中へと手を向ける。
「さあ皆さん、中に入ってください」
神官に促されて、A組の生徒たちは神社の中へ。
すると、どうやら普通の神社ではないことが分かった。
先ほど参拝した本殿には、垂れ幕や御簾に敷物、そして参拝者用の木のベンチなどが置かれていた。
しかしこの建物の中には、ご神体を示す銅鏡とそれを飾る棚、その傍らにある大太鼓だけが、だだっ広い板の間の一画にある。
柱や天井の造りは確りとしたものなので、逆に中の殺風景さが目立っている。
「神社の中というより、舞踊の練習場といった趣ですわね」
手水舎の呟きに、小里が反応する。
「いや、舞踏の練習場なんて、普通の家庭の人は見たことないから」
「そういうものなのですか?」
二人の小漫才を聞きつつ、満景は建物中をぐるりと見回す。
ほぼ何もないに等しい内装だが、それがスッキリとした気持ちにさせてくれることを、満景は感じていた。
「なんとなく、清浄な気がするね」
「うむっ。朝のお勤めを終えた、我が神社と似た雰囲気がある」
力雄が満景に同調する一方で、ギヤマンは苛立たしげな態度で自身の首の後ろに手を当てる。
「空気が澄み過ぎてて落ち着かねえ。修行で行かされた山の上を思い出すぜ」
「東京都内の空気のはずなのに、山深くの森の中と言われた方が納得な、空気のきれいさがありますね」
若槻の意見に、なるほどと生徒一同が納得顔になる。
そこで鬼瓦先生が、先生らしく、この場所についての情報を教えてくれた。
「この建物は、日本全国に祈りの力を伝播させるために作られた、隠し神社だ。ここで儀式が行われるため、常に祈りの力で場所と空間が浄化されているんだ」
「祈りの力?」
ある生徒が聞きなれない単語をオウム返しすると、鬼瓦先生は秘密を教える口調で語る。
「日本は、昔から呪術を政に使ってきた。その中で、神職が日本の太平をと願うことによって発生する力を、祈りの力と呼んでいる」
ここで満景が挙手して、鬼瓦先生へ質問する。
「願う人の想いによって発動する力とすると、それは呪いに近い力のように感じるんですけど」
「そうだな。悪感情を下地にして生まれる力が呪いで、幸福の願いを下地に生まれるのが祈りの力という区分になるな」
そんな鬼瓦先生の講義に一区切りついたところで、神官が口を開いた。
「それでは皆さんに、この神殿で行われる祈りを披露させていただきます」
神官が生徒たちに一礼してから、軽く手振りを行った。
すると建物の裏に隠れていたらしき、狩衣姿の神官たちが建物の中に入ってきた。




