115話
このマンションの部屋の中にあるはずと、警察が探しているであろう、本命の呪物。
満景たちは、呪物が多く並べてある部屋にはないと考えて、他の場所を探すことにした。
しかし満景たちがマンションの部屋に入って、既に五分が経過している。
この部屋を探せる一班の所有時間は十分間なので、残り半分しか猶予がない計算だ。
加えて満景たちは、この部屋の物品を動かす権利を持ち合わせていない。何かしら動かす場合は、現場を監督する刑事二人に話を通さなければならない。
しかし刑事に協力を求めれば、捜索で時間を消費してしまう。
残り時間から考えると、刑事たちの手を借りれる回数は、一度か二度になる。
その貴重な回数を何処に使うべきかについて、満景たちは新たな目星をつけることにした。
「寝室やキッチンは、物が多すぎるから、調べ回るには不向きだよね」
満景がどうするべきかを問いかけると、ここで小里が不適な笑みを浮かべてきた。
「ふっふっふ。どうやら、私の出番かなあー」
小里が私服の袖や裾を打ち払うと、それらの口から管狐がにょろにょろと五匹出てきた。
「寝室の中を探し回って、呪いっぽいものや封印がないか調べて」
「「「きゅい」」」
管狐たちは一声鳴くと、もの凄い速さで寝室の中を駆け回り始める。ベッドの下からクローゼットの中、そしてエアコンの上や家具の裏にまで入りこんでいく。
元が霊的な存在だからか、管狐が物の間や物の下を通り過ぎているにも関わらず、寝室にある物品は一つたりとも揺れていない。
そして一分も経たたないうちに、五匹の管狐は小里の前に集合した。
「「「きゅい」」」
「あんがとー。呪いも封印も、この部屋にはないってさ」
寝室は外れだった。
となると呪物の隠し場所の候補は、リビング、キッチン、風呂、トイレ、玄関。
それらを順繰りに管狐に調べてもらおうかと満景は考えていたが、先にギヤマンが小里に要求した。
「なあ。換気扇のダクトの中とかを、その小さいのが調べることができっか?」
「もちもちのろんだよ。さ、皆。ダクトの中を調べてきて」
「「「きゅい!」」」
管狐はスルスルと天井に近づくと、トイレや風呂場にある換気扇、各部屋にあるエアコンの中へ入りこみ、それらから外に繋がるダクトを調べて戻ってきた。
「「「きゅい!」」」
「呪いも封印もないってさ」
「呪いっぽい感じもないってのか?」
「「「きゅきゅい」」」
「呪物部屋のエアコンにはあったけど、他の場所には全くなしだって」
「そうかよ。あんがとよ、小さい狐ども」
ギヤマンは短い礼の言葉を告げると、何かを確信している足取りで、トイレに進んでいった。
このマンションにあるトイレは、昨今の流行とは外れた、昔からよくあるタンク付きの洋式トイレだった。トイレタンクの水が出る場所には、芳香剤が置かれている。トイレ部屋の壁の上部には、トイレットペーパーを入れるための棚があり、その棚の扉も開かれていた。
一見すると、よくある様式のトイレに見える。
しかし、よくよく観察すると、変な点があった。
「トイレに盛り塩?」
満景が見つけた塩の小山は、小皿の上にある状態で、トイレタンクの裏に隠すかのように、トイレ部屋の奥隅に一つだけ置かれていた。
しかし満景は盛り塩という見解だったが、それにしては更に乗せられた塩の形が変だった。
盛り塩というのは、普通は三角錐の形に押し固められている状態になっている。
しかし、このトイレの奥隅に置かれた塩は、雑に調味料入れから大匙で移し替えたような、平たく崩れた山になっている。さらにその山の上は、指で一つまみ取り上げたような形に削られていた。
そんな塩の山の姿はまるで、盛り塩の作り方を知らない素人が見よう見まねで用意したかのよう。
警察が介入してくるような呪術師――歴とした霊能者の家にあるにしては、不似合いな塩の山である。
満景は不思議にしか思わなかったが、ギヤマンは違うようだ。
ギヤマンは、皿に乗せた塩の山を確認すると、次にトイレタンクの上に置かれた芳香剤に鼻を近づける。
「ハッ、やっぱりな。こりゃあ古典的な手を使ったな」
ギヤマンは一人で納得すると、トイレから身体を半分出して、玄関で待機している刑事二人に大声を放った。
「おい、刑事のおっさんら! ちょっとトイレのタンクの中を調べてくれねえか!」
ギヤマンの呼びかけに、刑事二人は白い手袋を両手にはめてから、部屋の中に入ってきた。
ギヤマンがトイレ部屋の外にでて、入れ替わりで刑事二人がトイレに入る。そしてトイレタンクの蓋に手をかけ、蓋をずらした。
その瞬間、ここまで一切感じなかった呪いの気配が、ずらした蓋の隙間から漏れ出てきたことを、満景だけでなく他の班員たちも感じ取ったようだった。




