114話
満景たちが、逮捕された呪術師が借りているマンションの一室に入ると、整理整頓された部屋の光景が広がっていた。
トイレ風呂別の2LDKの間取りには、モデルルームかと思うほどの清潔さのリビングがあり、トイレや洗面台は綺麗に掃除されていて、寝室と思われるベッドがある部屋も全ての物が所定の場所に収められて整然としていた。
これらの光景を見て、ギヤマンが首を傾げている。
「あん? まだ警察は家探ししてねえのか?」
「どういうこと?」
満景が疑問を告げると、ギヤマンは思い出すのも忌々しいといった口調で語る。
「警察に家探しされると、全ての物が出しっぱなしにされるんだよ。こんな整頓された状態ってことは、ヤツらは調べてねえってこった」
「なるほど。詳しいんだね」
「武装集団閻魔寺は武闘派だ。警察と揉めるのなんて、しょっちゅうだかんな」
ギヤマンの説明に、班員一同が納得の頷きを行う。頷いた理由が、ギヤマンに理解を示したからか、武装集団閻魔寺が警察にマークされていることに対してかは、それぞれの胸の内にしか答えはない。
ともあれ、生活空間が広がっている部分には、呪術関係の物は置いてなさそうだった。
それではと、満景たちは残った最後の部屋の中を見ることにした。
どうして調べることを最後に回したかというと、この部屋から薄っすらと呪いの気配が漏れ出ていることを、満景たちは感じ取っていたからだ。
扉が開け放たれたままの、呪術関係の物品があると予想される部屋の中を、満景たちは揃って覗いた。
ガラス窓がある場所には、真っ黒な分厚いカーテンがかかっていて、外からの光を遮断している。さらには、カーテンの前に木製の戸棚が設置されていて、カーテンも窓も開けられないような形になっていた。
天井にあるシーリングライトは点いているものの、あえて光量を絞っているようで、部屋全体が薄暗く照らされている。
フローリングの床一面にはブルーシートが敷かれ、その上に薄手の絨毯が敷き詰められていた。儀式の際に使用した塗料だろうか、絨毯には色々な汚れが染みついている。
部屋の片隅には膝丈の小机があり、燭台、薬研、茶色いガラス瓶、赤色で汚れた筆、コピー用紙の束が置かれていた。
窓際にある戸棚と部屋に備え付けられているクローゼットは全開にされていて、それらの棚板の上にも呪術道具らしきものが並んでいる。藁人形や日本人形、釘や短刀、口が紙で封印された壺、小石や宝石の原石、ハードカバーの本が数冊。その他、満景たちが目にしたことのない道具が多数。
その部屋の様子を見て、満景たちはそれぞれに感想を抱く。
「この部屋全体から、呪いの気配がするね。作業部屋ってことかな」
「うひー。ここ見ているだけで、鳥肌たつー」
「こちらにある物品も綺麗に並んでおりますね。ここに住んでいた術者は、几帳面だと見受けられますわ」
「ケッ。人を呪うことを生業にしてるやつが、キッチリカッチリしてるだって。こりゃ笑い話だな」
「そんなに強い呪いではないみたいですね。うちの神様が問答無用で祓おうとはしませんから」
「むぅ……」
満景は廊下から部屋を覗き込みながら、若槻が口にした『守護神が祓おうとしないほど呪いが弱い』という言葉に疑問を抱いた。
「警察に捕まったからには、呪術師は強力な呪いを使ったはずだよね。この部屋にあるもので、そんな呪いをかけられそうに見えるかな?」
満景を含む班員は、誰もが霊能関係に幼い頃から関わってきた。だから全員が、元からある程度、呪いとはこういうものという知識がある。加えて、ここ最近の呪いについての講義を実習授業で受けたことで、さらにその知識は深まっている。
その知識を元に判断すると、この部屋にある物品では、どれをどう組み合わせたとしても、警察が出張ってくるような強力な呪いにはなり得なかった。
全員がそう気づいたところで、小里が何かを思いついた様子になる。
「じゃあさ、強い呪いの道具が、どこかに隠してあるんじゃ?」
「隠してあるって、この部屋のどこに?」
満景が指摘したように、呪術関係の物品が置かれている部屋の中は、隠せる場所の代用と言える戸棚とクローゼットがオープンになっている。
クローゼットの上板はハメ殺しになっていて開かず、切れ込みもないため、屋根裏に隠すことはできなさそうだ。
「この部屋にないのなら、他の部屋に隠してあるとか?」
「他の場所は綺麗に整頓されている状態だから、隠し場所はあるとは思うけど」
小里の主張に、満景が受け入れられないのには理由がある。
「警察が出張ってくるような強い呪い。その呪いが宿った呪物があるとしたら、この呪術道具の部屋以外の場所から呪いの気配がしてないと変じゃない?」
満景の反論の通りに、班員の誰もが、呪術道具部屋以外の場所からは、呪いの気配を感じてはいなかった。
改めて他の場所を見てみるが、やはり呪いの気配はどこからもしてなかった。




