113話
午後の実習にて、満景ら一年A組の生徒たちは、今朝にニュースに出てきたばかりの呪術師のマンションへとやってきていた。
マンションの扉の前で、鬼瓦先生が生徒たちに向き直る。
「いいか。俺たちがこの中に入れるのは、警察の捜査に協力するためだ。不用意に部屋のものに触っちゃだめだからな。それと何か気付いたことがあったら、すぐにこちらの警察のお兄さんにいうように」
鬼瓦先生が手を向けた先には、スーツを来た刑事が二人立っていた。
二人の刑事は、どちらも身体の幅が厚い筋肉質で、使い込まれたスーツを着てすり減った革靴を履いている。
両者の見た目で顕著な違いは、二人の身長差だろう。
片方は百九十センチメートルを超えていると目せる大きさなのに対し、もう片方は百七十センチ前後ほどの身長だ。
(ノッポとチビ――って言い表すほど、背の低い刑事さんも小さくはないな)
満景が失礼な感想を抱いていると、鬼瓦先生が追加の注意事項を告げた。
「見ての通り、このマンションの部屋は生徒全員が入れるほど広くない。そのため、班ごとに入ることにする。そして入ってから調べる時間は、一班十分とする」
生徒側から「はーい」という返事があったところで、家宅捜査の協力作業が始まった。
先ずは満景とは違う班の生徒が、呪術師の家へと入った。その生徒たちを監督するように、刑事二人も続いて中に入っていった。
開きっぱなしのマンションのドアから、生徒たちが家探しする音が出てくる。
家探しというと、どったんばったんと荷物や家具をひっくり返す音が聞こえてきそうだが、今回のところは静かな小音がする程度だった。
そんなこんなで十分が経過して、入っていた生徒たちが出てきた。それと入れ代わりに、次の班が中へ。
出てきた生徒たちは、別班にいる友人に中の状況を話していく。
「風呂トイレが別で、リビングの他に部屋が二つ。全ての部屋と廊下はフローリングで、畳み部屋はなし。その部屋の一つを、霊能活動に使っていたっぽい」
「色々と呪具っぽいものが並べてあったけど、ヤバさを感じる呪物は感じなかった」
満景が漏れ聞こえてくる話に耳を傾けていると、小里が満景の制服の裾を引っ張った。
「私らが捜査協力してるのってさ、警察が目当てのものを見つけられてないからでしょ」
「そうかもね。こうして僕らが捜査の一環として部屋に入れているってことは、この部屋の住民が逮捕されたから、追加の家宅捜査ができるようになったからだろうし」
「じゃあさ、警察が見つけられていない目当てのものって、なんなんだろ?」
「僕としては、所持禁止の物品や薬物って線を崩したくないね。でも小里さんの考えは違うんでしょ?」
「私は、警察に圧力をかけられる大物を呪った呪物が見つかってないって予想するね。呪物のあるなしで、呪いの解除のやり易さは違ってくるものっしょ?」
「それは確かに。呪術の要となっている物品を壊せば、それだけで呪術は綻びを生じるからね」
この二人の会話は、同じ班員の面々に聞こえていたようで、会話に参加してきた。
まず手水舎が、顔に嫌悪感を滲ませる。
「家人が留守の間に家探しするだなんて、まるで泥棒ではありませんか。旧家に連なる者としては、あまり参加したくはありません」
「ケッ、お嬢様がお高くとまりやがってよぉ。犯罪者の家を合法的に探し回れるんだ。宝探し感覚でいりゃあいいのによ」
ギヤマンの苦情に、若槻が苦笑いを返す。
「捜査協力だからって力を入れる必要はないけど、宝探しだって楽しみにするのもどうかと思うよ?」
「るっせえなあ。テメエは、守護神が部屋の中で暴れないか気を付けろよ。先日、満景の護符をバラバラにしちまったように、証拠品をバラバラにしちまわねえようによぉ!」
ギヤマンの睨みつけに、若槻の守護神が抗議でラップ音を響かせる。
ちなみに力雄は、会話に参加しないまま、むっつりとした表情を崩さない。しかし満景には分かっている。力雄は内心、本当に人の家に勝手に入って良いのかなと悩んでいるということを。
そんなこんなで時間が過ぎていき、いよいよ満景たちが呪術師の家に入る順番がやってきた。




