110話
占いの館で、三人ほど占いを終えたところで、今日の満景の業務終了時間である夜九時になった。
満景は占いに使用した道具を片付けると、占いの館の外へ。
夜九時過ぎだというのに、占いの館の出入口には、占いの順番待ちで六人が並んでいた。
満景は横目で彼ら彼女らの姿を観察しながら、待機列の横を通り過ぎた。
そして占いの館から最寄り駅へ移動する最中に、占いの館で占った人達と待機列にいた人達を思い返す。
(なんだか、誰もが薄っすらと呪われているんだよなあ)
急に人々に呪いが降りかかった――というわけではないだろうと、満景は予想する。
(校外実習で呪いを感じ取ったり触れたりしたから、一時的に呪いの感知能力が上がっているから、僕が普段気にならなかったぐらいの弱い呪いを感じちゃっているんだろうけど)
ここで満景は、あえて呪いを感じ取る自己の感覚を強め、周囲を歩く人達を観察することにした。
すると、道行く人の多くが呪いにまとわりつかれていることに気いた。
多くの呪いは、霞のように薄っすらと弱々しいもの。それこそ、人に軽い疲れを感じさせる程度の効力しかなく、呪いを受けている人が気合を入れたら消滅するほどの、弱い呪いでしかない。
ときどき、やや強い呪いにかかっている人もいるものの、満景がお節介を働いて解いてあげようという気持ちはならない強さでしかない。
駅に入ってからも観察を続けると、多くの人が呪いを受けている理由の一端が見えてきた。
(原因の多くは、スマホかな)
満景が見ている先で、とある会社員風の男性が自身のスマホの画面を見ている。
その画面に何が映っているかは、満景の場所からでは見えない。
しかし、何かしら男性の気分を害する情報が映っているようで、男性は渋面になりながら舌打ちしている。
「チッ。使えねえな……」
そう男性の口から悪言が飛び出たところで、弱い呪いが男性の身体から発生したことを、満景は感じた。
男性が発した弱々しい呪いは、空中に溶けるように消えた。
しかし消えたのではないと、満景には分かった。
(男性が『使えねえ』と悪言を放った相手に、男性から離れた呪いが向かったんだろうな)
満景は、その男性の観察を止め、他の人に目を向ける。
目を向けたのは、SNSアプリでチャットしている様子の成年女性。彼女の指が素早くスマホの画面を滑ると、瞬く間にチャット画面に文字や絵文字が現れる。
満景には、あの女性が文字で誰かと会話していることは分かるが、その文章内容までは読み取れない。
しかし、女性が文字を打ち込む度に、弱い呪いが女性の体から発生しているのを感じ取れる。
(友達の間で、誰かの悪口を書き合っているのかもね)
満景が次に観察するのは、嬉しそうにスマホの画面を見ている、中年女性。
その女性の身体には弱い呪いがかかっていた。だが、彼女がスマホの画面を見て嬉しそうに笑うと、その身体に憑いていた呪いが霧消した。
(嬉しさで気分が上がって、弱い呪いをはね退けたんだな)
ああして消えた呪いは、呪い返しによって、あの中年女性を呪った人物に跳ね返る。
学校の実習で行った呪い返しの通り、弱い呪いを返されたところで、大した影響がやってくるわけではない。せいぜい半日ほど体調不良や不運になる程度だ。
そんな人物観察の果てに、満景は理解する。
(情報化社会になったことで、人が気軽に他人を呪える社会になっているんだ)
仕事で勉強で幸運で成功した者を見て、人は心に妬み嫉みを生じる。逆に、様々な原因で失敗した人を見て、人は心に優越と蔑みを生じさせる。
そんな妬み嫉みを言葉で文章で形にすることで、優越と蔑みの気持ちを表明することで、原始的な弱い呪いは発動する。
だがこれは、人間の性ともいえる心と行動なので、どうしようもない。
世間が隣近所だけだった昔は、そうした心の動きが生じる機会は少なかった。
しかし現在では、インターネットで容易く世界中に繋がることができ、そして関ることが出来る人数が多くなれば、成功者や失敗者を目にすることも多くなる。
そした人たちを目にする機会が増えれば触れるほどに、人は弱い呪いを発生させていく。
だが弱い呪いは、必ずと言っていいほどに、解呪される運命だ。
なにせ先ほどの中年女性のように、何かしらの楽しい気持ちが湧き出たら、それだけで弱い呪いは力を失ってしまうのだから。
(軽く人を呪い。軽くて弱い呪いが、人の喜の気分で晴らされ。晴らされた呪いは呪い返しとなって、軽く人を呪った人に戻ってくる。まるで自分を不幸にするために、人は人を呪っているようだ)
満景は、その呪いの循環に自分が入らないよう、人への悪感情を口や文章にはしないようにしようと、心に決めたのだった。
予約投稿日時を間違えて、二話連続更新になってます。
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そのため次回更新は、10月14日になります。




