108話
三階にはまだまだ呪物は残っているが、ビルの前に山のように積まれた段ボール箱を見て、僧侶が搬出の終了を宣言した。
「やはり人手がありますと、物も多く出せますね。ありがたいことです」
僧侶は搬出作業で疲労困憊の生徒たちに感謝の一礼するが、すぐに境内のある方へと手を差し向けた。
「ではこれらの呪物を、敷地の端にあります焼却炉のもとへと運んでいただきます」
運搬作業開始の宣言に、生徒たちの顔にうんざり気味の表情が浮かぶ。
その生徒の気持ちを慮ってか、僧侶が笑顔で次の言葉を放った。
「急いで運ぶ必要はありません。この数を一気に燃やせるほど、焼却炉は大きくありません。なので先に入れたものが良い感じに焼けてから、次を投入します。それまでに持ってきてください」
そういうことならと、生徒たちはノロノロと動き出して段ボール箱を抱えると、僧侶が示した焼却炉への道へと進んだ。
そうして現れたのは、住職の他に二人の僧侶と、歴史ある寺に存在するには不似合いな、最新式の焼却炉だった。
生徒たちが焼却炉に目を向けているのを察してか、世話役の僧侶が説明してくれた。
「昨今、地域の条例が厳しくなりましてね。お焚き上げという宗教儀式であろうと、野焼きは出来ない決まり。使う焼却炉にしても、排出される煙が環境基準に合うように、古い焼却炉は使ってはいけないことになりましてね」
呪物を焼くための準備なのか、既に焼却炉の中には火が入っている。
しかし焼却炉の煙突から出てくる煙は、本当に炉の中に火が入っているとは思えないほど、薄っすらとだけ白い煙が立ち上っていた。
「それでは、焚き上げを行います。学生の皆さんは、私の合図がありましたら、焼却炉の中に段ボール箱を丸ごと入れてください。熱気が来て難しいかもしれませんが、投げ込むのではなく、そっと押し入れる感じでお願いします」
そうして一人目の生徒が、段ボール箱を焼却炉の中へと入れた。
するとすぐに、住職を含めた僧侶たちは焼却炉の周りに位置取り、お経を唱え始めた。
世話役の僧侶もお経を共に口ずさみながら、焼却炉の投入口から中を覗いて、段ボール箱とその中に入っていた呪物の燃え方を確認する。そして、次に段ボール箱を持っている生徒を手招きする。
「――では次の方、入れてください」
次にと呼ばれた男子生徒。彼が持っていた段ボール箱は重かったようで、優しく押し入れたにもかかわらず、焼却炉の中に落ちる際にゴトンと音が鳴った。
それから、焼却炉の中へ段ボール箱を入れて燃やし、お経が唱えられ、そして投入できる余裕が炉の中に生まれたら新たに段ボール箱が入れられるという光景が続いた。
炉の中にある物品が赤々と燃え、その熱気が炉の外へと漏れ出てきて、周囲の気温が上がっていく。
お経を唱える僧侶たちは、剃り上げた頭に汗の珠を生じさせながら、一心不乱に経を唱え続ける。
生徒の方も、経と熱気で認識力が段々と煮えてきて、呪物を炉に入れる装置のような態度に変わっていく。
そんなある種のトランス状態に陥った一同が正気に戻ったんは、ビルの前に搬出された段ボール箱が全て炉の中に入り、その後にお経が一説唱え終わった、夕暮れ前だった。
「これにて、呪物の焚き上げは終了となります。皆さま、お疲れ様でございました」
世話役の僧侶と共に、焼却炉の近くで経を唱えていた僧侶たちも、生徒たちに向って一礼した。
その光景を見て、生徒たちも我に返った様子になり、そして疲れ果てたといった態度に変わった。
そこに、鬼瓦先生から注意が飛んできた。
「こら、だらしない姿を見せるな。貴重な体験をさせてくださった僧侶の方々に、お礼を言うぞ」
鬼瓦先生が音頭を取り、生徒たちに整列させてから、全員で僧侶たちへ頭を下げた。
この一礼でもって、今日の校外実習は終わり。
あとはバスに乗り込んで、学校へと引きあげるだけ。
寺を出てバスに乗り込むと、生徒たちは呪物の運搬で体力を使い果たしたため、ほぼ全員が座席の上で眠ってしまったのだった。




