107話
昼食に出されたのは、お寺だけあって、精進料理だった。
お粥が丼一つ、漬物が五切れ、豆腐料理が一皿。そんな見た目が質素な料理だった。
粥をひとすすりすると、塩味は薄いものの、植物由来の出汁気が感じられる。漬物を小さく齧ってから、粥を食べる。漬物のしょっぱさによって、粥の中にある出汁の味が引き立って美味しくなった。
豆腐料理は、自家製ガンモドキとフキの合わせ煮。ガンモドキもフキも出汁が染み染みで、口いっぱいに旨味が広がる。
満景は、幼い頃から物置暮らしを強いられてきた環境だったので、この手の地味な見た目の食事でも十分美味しく食べられる。むしろ出汁を引く手間をかけている料理なので、ありがたさすら感じている。
しかし他の生徒たちはというと、濃い味と旨味の多い食事に慣れきってしまっているからか、あまり箸が進んでいない様子だ。
満景と同じ班の面々も、小里は料理が口に合わないと表情で語っていて、力雄は量が足りないと言いたげな目をしていて、手水舎はすまし顔をしているものの箸の進みが遅く、若槻は理性でもって食事を受け入れようとする微笑を保ち、ギヤマンは不満顔で一気に味わわずに飲み込んでいる。
多くの生徒が四苦八苦しながら精進料理を食べ終え、食後の茶を貰い、昼食の時間は終わった。
「「「ごちそうさまでした」」」
と生徒一同が声を上げ、世話役の僧侶が返礼で合掌する。
「では午後からは、お焚き上げの補助をしていただきますね」
世話役僧侶に案内されて、再び呪いの物品が収蔵されているビルへ。そして、その三階へ。
三階は、仕切りのないだだっ広い空間。
そしてその空間には、大量の段ボール箱があちらこちらに積み上げられている。
「この三階にある呪物は、焚き上げで呪いが晴れる程度まで呪いが弱いものばかりです。箱越しであれば、持ち運ぶ人に呪いがかかることもありません」
その僧侶の説明の後を継ぐように、鬼瓦先生が生徒たちに言い放つ。
「お前らが、この段ボールの山をビルの外へ運ぶんだ。その後で、また同じものを焚き上げる場所まで運ぶ」
「「ええー!」」
生徒たちが重労働に不満の声を上げるが、鬼瓦先生は取り合わない。
「おら、さっさと運べ。言っておくが、今日焚き上げるものを全部下すまで、階段を何往復もしてもらうからな」
生徒たちは不満顔のまま、しかしやらなければ終わらないと分かってしまったため、のろのろと段ボールの運び出しを行い始めた。
三階にある呪物は、どれも今日焚き上げを行っていいものなのだろう。生徒が殿ダンボール箱を持っていっても、世話役の僧侶が制止を呼びかける様子はない。
満景たちの班も動き出す。
ここで力雄とギヤマンが張り切りだした。
「一つずつでは手間だ」
「幾つか重ねてもってくぞ」
力雄は手近な段ボール箱を三つ上下に重ねると、それを一息に持ち上げてから階段を下りていった。
ギヤマンは、まず片手で段ボール箱を押して重さを計ると、軽い手応えのものを二つ重ねて、それらを抱え持って階段を下りていった。
そんな二人の行動を見て、満景も制服を腕まくりする。
満景は、段ボール箱の中でも重たいものを一つ選んで、抱え上げる。
「あの二人を真似しないで、持ってけるものを一つずつ運んでいこう。重たいものなら、二人係で持ち運んでもいいかもね」
満景の言葉に従って、小里は軽そうなものばかりが入った段ボール箱を選んで抱えた。
手水舎も同じく軽いものを選んだ。
若槻は少し重そうに見える段ボール箱を選ぼうとしたところで、守護神からの警告音がきたので、また別の箱を選んだ。
それぞれが段ボール箱を抱えて、階段を踏み外さないように気を付けながら、一階へと下りる。
満景たちが段ボール箱と共に外にでたのと入れ代わりに、力雄とギヤマンが階段を上って三階へと向かっていった。
他の生徒たちも段ボール箱を外へと運び終わると、再び三階を目指して戻っていく。
満景たちもその流れに乗り、再び三階へ。そして再び段ボール箱を抱えて、ビルの外へと運ぶ。
そんな行動を三回ほど繰り返したところで、手水舎の口から泣き言がでてきた。
「お待ちなさい。ふとももと腕がプルプルして、ものを運べそうにありません」
見てみると、本当に腕とふとももが小さい痙攣を起こしている。
それを見て、小里がからかい声を手水舎に放った。
「あきらかに運動不足ー。良いとこのお嬢様だからって、ちゃんと運動しなきゃだよー?」
「ちゃんと運動はしております! けれど、こんな短時間で連続して、階段を上り下りした経験なんてなかったのです!」
手水舎は言い返しながら、小里の足を指す。
「そう言っている小里さんだって、足に疲れが出ているご様子がおありですけれど?」
「……いやまあ、昨今の情報屋って、足で情報を稼いだりはしないかんねー」
そんな二人と同じように、運動不足な数人の生徒も、疲労で動けないと示すように、ビルの中に戻ろうとはしない。
この時点から、ビルと外を行き来する度に、段々と搬出作業を行う生徒の数が減り始めた。
最終的には、運動に慣れている人だけが行き来するようになり、呪物の搬出速度は遅くならざるを得なくなった。




