↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/114

106話

 呪物であっても、ガラスで隔たれた向こう側にある、展示物でしかない。

 生徒たちの多くは、十分も経たたないうちに、見学に飽き始めている様子だった。

 その内の数人は、一階の展示物をざっと見ると、そそくさと二階に上がっていった。そして一人が階段を下り戻ってきて、他の生徒の一人に小声で喋りかける。


「二階の展示物は、ガラスがないから、もっと近くで見ることができるぞ」

「えっ、本当かよ」


 二人は二階へ行き、その話を聞いていた生徒の何人かも続いた。

 鬼瓦先生も、ガラス越しに見る一階より、ガラスがない二階の展示物を生徒を見る方が危険だと判断したのか、彼ら彼女らの後を追うように二階へと上がっていった。

 そういった光景を見てか、ギヤマンが満景たちへ言い放つ。


「オレも上に行く」


 ギヤマンは、展示物など興味ないという態度を隠さず、粗野粗野しい足取りで二階に上がっていった。

 そうして他の生徒も、一階に留まる者と二階に上がっていく者に分かれていく。

 満景は、一階の展示物が興味深いため、一階に留まることにした。


(ある神社のご神木に埋没していた、古い時代の五寸釘か。丑の刻参りの産物だろうと予想はつくけど、怖い呪いがついてるな)


 満景の霊的な現象を嗅ぎ付ける鼻には、その五寸釘からガラスを通って臭ってくる、焦げた樹液のような香ばしくも甘苦さを感じる。

 恐らく、丑の刻参りをした人物が込めた念と、神木を傷つけたことに対する神罰が、この釘に込められている。


(これだけの呪物。呪いを商売としている家なら、大金を払っても手に入れたいだろうな)


 この釘を呪いに用いることができたのなら、人を簡単に破滅させることが可能だろう。そして釘にある呪いの強さを考えれば、十人どころか百人を呪っても、釘の呪いが薄まって消えることはない。

 もっとも、この釘にある呪いを自分勝手に使って、術者が無事にいられる保証は欠片もない。

 満景としては、この釘がこのまま展示物としての役割を終えて、焚き上げで焼滅することが望ましいと感じている。

 そういう感じに、満景は一つ一つ展示物にある呪いを確認して、一階にある全ての展示物を見終えた。

 その頃になると、一階にいるのは満景だけになっていた。


(ちょっと、のめりこんじゃったな)


 満景は反省しながら、二階へと上がった。

 二階に展示されている呪物は、生徒の誰かが語っていた通りに、ガラスに隔たれていなかった。

 膝丈ほどの台の上に、呪物が雑多に置かれている。その台と通路を隔てるのは、腰ほどの高さの木柵。

 そんな造りなので、柵から手を伸ばせば、呪物に触れられそうな感じだ。

 というか、柵の幾つかの場所には木の棒があり、生徒の振る舞いを見るに、棒を使って見学者が呪物を動かすことが出来るようになっているようだった。

 重ねて置かれてある呪物を、棒で手前にあるものを動かすことで、奥のものを良く見えるようにするのだ。

 棒を使うとしても、間接的に呪物に触ることになる行為だ。物品にある呪いが降りかかりそうなものに感じられる。

 しかし満景は、そういった心配はしなくて良さそうだなと感じていた。


(一階にあったものに比べて、二階にあるものの呪いは弱々しいから大丈夫でしょ)


 一階にあった釘は百人呪うことができる逸品だったが、二階にある呪物はどれも単体では一人を呪うのが精々のように見える。むしろ大半の物品は、長期間の放置で呪いが薄まってしまっているようで、大した力を持っていないように感じられる。

 そんな危険性の薄い呪物の山に、生徒たちの多くが楽しそうに相対している。

 棒を使って呪物をかき分けて、もの珍しいものや昔懐かしいものを探しているようだ。


「うっわ、なにこれ。人の形をした消しゴムに、シャーペンの芯がブスブス刺さってる」

「こっち見てみろよ。二人の名前が書かれた南京錠だ。しかも鍵穴が接着剤で埋まってるぞ」

「懐っつ! 俺が小学生の頃の変身ヒーローベルトだ。持ち主の名前が塗りつぶされてる。誰かが借りパクしたヤツだったりするか?」

「コックリさんの紙がある! どこの誰がやったんだろう、気になる~」


 わいのわいのと、呪物を見てはしゃいでいる。

 一見すると不謹慎だが、満景の呪いの知識からするとそうでもなかった。


(楽しい気配は、それだけで呪いを薄めることに繋がる。見学者がわいわいと騒いでいるのを許すのも、呪物にある呪いを弱める役に立つだろうね)


 生徒の多くが楽しそうにしているが、逆に満景にとっては面白いとは感じられない。

 物品にある呪いは弱くて興味がそそられないし、実家では物置暮らしで流行とは縁遠い生活だったため物品に懐かしさを感じることもないからだ。

 そんな満景の気持ちを悟ったわけではないだろうが、ここで鬼瓦先生が生徒へ声を放ってきた。


「お前ら、もう見学は十分だろ。それに正午になるから、この寺で昼食のご相伴に与らせてもらうぞ。さあ、一端ビルから出ろ」


 その号令に従う形で、満景は上ってきたばかりの階段を下りて一階へ。そして外へと出た。

 他の生徒たちもビルの外にでたところで、年若い僧侶が昼食の案内に近づいてきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なるほどなあ、そういう楽しい気配でもって僅かなりとはいえ呪いを薄める役に立つからこその展示かあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。