103話
布で優しく肌を撫でる感覚から、薄っすらとだけ感じる呪いの感覚を覚える。
その満景の助言は、一定の効果を発揮したようだった。
「この感じが呪い、なのかしら?」
自信なさげに、手水舎が首を傾げる。
しかし何かしらの感覚は確りと感じ取れているようで、首の後ろに手を当てたり、体を捻って身じろぎしたりしている。
それから遅れること少しして、小里と力雄も呪いに触れられている感覚を得ることができたようだった。
「むっ。鳥肌が立つ」
「毛束の先だけで肌を撫でられているって感じ」
最後にギヤマンも、呪いに触れられている感覚が分かったようだ。そして分かったからこそだろう、不機嫌な態度に変わる。
「ちっ。コソコソ、うぜーな、コレ」
ギヤマンは発作的に特殊警棒を伸長させて、自分の肌に触れている呪いを殴り飛ばそうとする。
ギヤマンの特殊警棒は霊的な存在を殴れる特殊なもの。
とはいえ、存在があやふやなほどに、ほのかに存在する呪いの狙いを定めることは難しいのだろう。
ギヤマンは、振り上げた警棒の下し先に迷っている様子だ。
そんな満景の班とは裏腹に、他の班の面々は呪いの感覚を掴むのに苦戦しているようだ。
その苦戦している生徒たちに、鬼瓦先生が近寄って助言をする。
「あの禁足地に入ることは駄目だが、より近づけば呪いが触れてくる感覚が少しずつハッキリしてくる。試してみろ。ただし、石の柵に触れるまでが限界地点だからな」
鬼瓦先生に言われて、呪いの感覚を得られていない生徒たちが、禁足地に近づいていく。
すると途端に、呪いの存在を感じ取る生徒が出始めた。
「あっ、これか。着ている服が肌に擦れるのと大差ないや」
「肌じゃなく、身体のムダ毛にだけ触られているような感じのコレが、ココの呪いか」
一度感じ取れれば、離れても感じ続けることができるようで、知覚できた生徒たちは揃って禁足地から離れる。
しかし生徒の中には、あと一歩で禁足地という場所まで来ても、呪いが触れている感覚を知覚できない者もいた。
その生徒たちに、鬼瓦先生は近づく。鬼瓦先生自身は呪いの知覚ができるようで、禁足地に近づいていくに従って、眉を不愉快そうに潜める具合が深くなっていっている。
「おーし。お前らは、呪いを感じるアンテナが弱いってことが分かった。これ以上やっても無駄だから、禁足地から離れていいぞ」
鬼瓦先生の残酷な宣言に、それを受けた生徒たちの表情が曇る。
それもそうだろう。聞きようによっては、落第宣言に聞こえなくもない口ぶりだったのだから。
しかし鬼瓦先生は、そんなつもりがなかったようで、あっけらかんとした口調で言葉を続ける。
「お前らは呪いを感じるアンテナが弱い。だからこれから先、霊現象の現場に行く際は、呪いを感知できる道具を用意しておくのを忘れるな。その手の呪具に伝手がないのなら、学校生協でそれなりのものを売っているから買っておけ」
アドバイスの言葉に、顔を曇らせていた生徒たちが驚きの表情になる。
鬼瓦先生は、ドッキリを成功させた仕掛け人かのように、その生徒たちに向かって笑顔を見せた。
「うちは霊能者を育てる学校だぞ。呪いの感知の良し悪し程度で、生徒を放りだすはずないだろ。ある分野が苦手なら、それを克服手段を学ばせる。それもまた学習ってもんだからな」
鬼瓦先生は、ひとしきり笑顔を見せると、生徒たちを並ばせた。
「よーし、この場での授業は終わりだ。禁足地に入ってはいないが、近場で騒いだからな。変に恨みをかわないよう、禁足地に向かって手を合わせて謝罪しておけ」
鬼瓦先生は率先して、禁足地に向かって手を合わせる。
生徒一同は倣って、手を合わせてから、心の中で謝罪の言葉を紡いでいく。
三分ほど経って、手を合わせるのを止めると、鬼瓦先生が先導して神社の外へ続く道を歩き、生徒たちが後に続いた。
神社の外に出ると、鬼瓦先生はスマホで連絡をして、それからすぐに大型バスがやってきた。
そのバスに全員が乗り込んだ。
これで今日の校外実習は終わりかと思いきや、もう一ヶ所行く場所があるようだ。
「呪いを感じ取れるようになったのだから、呪いが祓われる現場も見学するべきだからな」
その鬼瓦先生の宣言の後、大型バスは国道を走り出した。




