101話
A組の生徒たちを乗せたバスは、東京を脱出し、神奈川県に入った。
そして向かった先は、満景が予想した内の一つである、神奈川県のとある神社だった。
閑静な住宅街の一画に、その神社はある。
しかし神社の敷地は、周囲が最近に都市開発の手が入っているにもかかわらず、草木が茂る場所が存在していた。
神社の石の鳥居には長年の風雨による劣化があり、境内は草花の匂いに包まれていて、まるで時代に取り残されている――昔ながらの空気を保持しているように見えた。
大型バスは、その神社の敷地に横づけすると、全ての生徒と荷物を吐き出した後、付近にある大型バスが駐車できる場所へと走り去っていった。
鬼瓦先生は、バスから下した荷物の前に立ち、歩道の上に立ち並ぶ生徒たちに体を向ける。
「よし、これから、踏み込んだら呪いを受ける場所へ向かう。そこで呪いを感じる肌感覚を掴んでもらう」
その鬼瓦先生の宣言の直後に、若槻が手を上げて発言する。
「先生。申し訳ないのですが」
「やっぱり、駄目か?」
「はい。通路は大丈夫のようですが、この神社の森に入ろうと考えると」
若槻の近くで、バシッと空気がはじける音がした。若槻の守護神からの警告音だ。
鬼瓦先生は、若槻の守護神について理解しているので、仕方がないと肩をすくめる。
「今回の校外実習の目的は、呪いを受けないよう、呪いを感じる肌感覚を養うためだ。若槻は、守護神によって呪いに近づくことが出来ないだろうから、目的は果たしていると言える。社殿の前でなら、自由にしていていい」
そう許しを与えた後、鬼瓦先生は他の生徒たちに向き直る。
「あらかじめ注意しておく。この神社の境内にある呪いは、洒落にならない程度に強いものだ。呪いのある場所に近づいて呪いに対する感覚を養うが、若さゆえの無謀さを発揮して呪いのある場所に踏み入ろうとは考えるなよ。ここの呪いは、解呪できる保証はないぞ」
その忠告を受けて、満景が思い浮かべたのは、東京都心のビルの地下にある、呪いを除去できなかった者を収容する施設だった。
鬼瓦先生が解呪できないと言ったからには、この神社にある呪いを受けた生徒は、あの施設と似たような場所に収監されることになるはずだ。
その満景の予想を、他の生徒たちも抱いたようで、神妙な顔で忠告を受け入れた様子だ。
「ちゃんと理解したようだな。それじゃあ、移動するぞ」
鬼瓦先生が引率して、まずは神社の社殿で一同揃ってのお参りをした。
この社殿に若槻を残し、その他の面々は神社の裏手にある森へへ続く道を進んだ。
森に入り込む直前に、立て看板。
『この先、禁足地あり。ご注意ください』
あっさりとした注意の文言。
呪いの存在を直接伝えない、不親切な看板だ。
しかし、そのあっさりとした不親切さが、禁足地という場所の恐ろしさを示しているようにも感じられる。
生徒たちは一様に、その看板の前で一瞬だけ立ち止まり、そして先導する鬼瓦先生を追いかけて足を速める。
そして生徒の中には、看板を通り過ぎた瞬間から、顔をげんなりとさせる者が出てきた。
満景も、そんな生徒の一人だ。
「どうした?」
力雄からの短い疑問の声に、満景は気持ち悪さを堪えながらの声を出す。
「呪いに触れられている感触があるんだ。禁を侵したら、即座に呪ってやろうって待ち構えている。そんな感覚があるんだ」
この満景と似たような言葉を、他のげんなり顔の生徒が周りに伝えている。
そして力雄を始めとする説明を受けた生徒たちは、急に緊張した面持ちになると、周囲を警戒するように目を巡らせ始める。
そんな生徒たちを、鬼瓦先生は先導して歩き、とある場所で足を止めた。
「ここが禁足地だ。悪ふざけで悪戯しようだなんて考えるなよ」
鬼瓦先生が指す先には、十畳ほどの土地を石の柵で区切った空間があった。そして石柵の周りには、禁足地の詳しい来歴を記した立て看板が一つ置かれていた。




